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王都のチートな裏ギルド嬢  作者: 秋津冴
2.ダンジョンの爆破魔

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7.望まない命運



 多分、いやそれは間違いなく。

 シリルの嫌な予感は一歩、また一歩と現実味を帯びて姿を現していく。

 幸いなのはエミリアと二人してさらわれてしまわないことだ。

 ハサイヒメたちが群れを成して襲い掛かってこないことだ。

 自分達二人の知識や属性や魔法のすべてを……吸い取られないことだ。

 ゾワゾワと闇色の嫌な感触が背筋を這い上がっていく。

 エミリアはこれに気づいてないようで、でも危険度のほうには理解があるようでどうにかこの地獄から逃げ出したいという思いを必死に押しとどめているようにも、シリルには見えた。

 どっちだろう?

 答えによっては、エミリアにはごめんねと伝えなくてはならない。

 シリルの持つ魔力ではこのダンジョンを崩壊させることは出来ても、それはほぼ相討ちにような状況になるだろうから。

 新人をあっけなく最初の研修で失うのは、なんて愚かな先輩だと嘲り笑われそうで。

 もしギルドの上の連中がそんな声を上げたら、課長がゆでだこみたいに顔を真っ赤にしてあの百もない腕で殴りつけているところまでは……想像ができた。

 もっとも、そうなったら先輩後輩の命なんてとうの昔に失われているのだが。


「もう、交換条件は済んだかしら?」

「えーまだありますよー。私の爆破魔法をまだお伝えしていませんからー」


 と、気の抜けたような声でナターシャは返事をする。

 ああでも、と続いたその一言はナターシャの瞳を怪しく鈍く光らせていた。


「……何か標的があった方がエミリアさんには分かりやすいかもしれません」

「標的? それは何かしら? 魔力がたくさんあって動き回るようなそんなもの、だったりするの?」

「ええ……それはそれで好都合。でもなってはくれませんよね、シリルさん」

「当たり前でしょ。あなた私と敵対する気なの?」

「まさかまさかー。提案してみただけですよ、てへ」


 てへ、じゃないわよ。

 恐ろしいことを簡単に言ってのけるこいつ。

 防げないことはないけれど、どの程度の威力まで成長しているかの予測がつかない。

 そんなものを受けてしまって、肉体の半分でも失ったら回復どころじゃない。

 交渉しよう。そうしよう。

 あっさりと方向転換。

 方針を転換すると、シリルはナターシャの欲しがっているものを確認することにした。


「何が欲しいの」

「はえ? 先にお伝えしないと駄目なんですけど」

「じゃあ先に……そこにある岩にでもぶつけてみたらいいじゃない」

「ああ、そうですねえ。ではそうしましょうかー」

 

 のんびりと間の抜けた声は相変わらずのままで、しかし、ナターシャの水色の瞳は蠱惑的な輝きに満ちたりていた。

 緑色の髪が一層深いむせびかえるような大森林の緑を浮かべたとき、瞳の色は水色からどんよりとした深海の底のような藍色へと色を変える。

 そのまま手を突き出すわけでもなく、何か詠唱をするわけでもなく。

 ただ、意志と視線のみによって、ハサイヒメのいうところの爆破魔法。

 指向性のそれは、一瞬だけ。

 青みがかった魔力の光を放ち、岩に向かって放たれる。

 そこに込められた熱量と魔力の密度をシリルは驚きの目で見きわめてしまう。

 ぼんやりとしたまま立っているエミリアと自分の前にあらかじめ張り巡らせていた防御結界に、更なる強度を増すように己の魔力に命令し、それが実行されたのと同時。

 魔力の波動が集約されて飛散し、続いて物理的な熱波が襲いかかってきて、その後から凄まじい音を伴った衝撃波と爆発音が波となってシリルの結界に叩きつけられた。


「ちっ!」

「ひえええっ」


 舌打ちをしながらそれに耐えうる結界を張ることに成功したとシリルは知る。

 エミリアは初めての経験なのか、それとも純粋に驚いたのか。

 その場に腰を抜かしてしまってただただ目の前で見えない壁にぶつかっては紫色の火花を上げる魔法の奔流におびえていた。

 ナターシャはというと、あちらは生まれながらにして防御結界を備えているのだろう。

 自爆するという方法以外に、爆発物を投げつけるという新しい攻撃方法を彼女たちはあみだしていたのだ。

 とんでもない進化の成長過程だと、シリルは舌を巻く。

 これが地上に這い上がってきた日には、厄災の日々が復活するに違いない。

 聖戦と呼ばれた遠い記憶の彼方にある、神々と魔族との戦争。

 そんなものは二度と必要ない。

 ある意味、地上にある王国の命運は、あろうことか自分の方にかかっていると知って。

 シリルは大きな大きなため息を一つ漏らした。



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