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王都のチートな裏ギルド嬢  作者: 秋津冴
2.ダンジョンの爆破魔

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6.一夜だけの命


 むーん、と口先をすぼめてナターシャは考え込んでいた。

 話してもいいものかいやでもどうしよう。

 そんな感じにいかにも人間らしく悩む彼女は、どう見てもモンスターには見えない。

 いやいや、人格や感情のある、と前に付け加えなければいけない。

 とにかく危険なはずのモンスターは、言葉を交わしてもしかしたら平和のうちにおさらばすることもできるかもしれないという可能性を秘めていることに、シリルとエミリアは驚きを隠せない。


「簡単にお伝えしますと、一晩しか生きられないのです」

「えっとーどういうことかしら」

「シリルさんでしたか。もう少し詳しく言いますと、地上の太陽と月の動きはこのダンジョンを管理しているダンジョンコアにも影響を与えています」

「えっ!?」

「まあまあそうだだろう、驚かないでください」

「それを言うなら、そうだだろうはいらないけどね」

「訂正しておきます。まあそう驚かないでください」

「……進化した」

「ありがたき幸せ? とにかく私の時間も地上時間でしてあと四時間ぐらいしかありません」

「……」


 そのままくたばってくれた方がどれほどよかったことか。

 その残り少ない数時間のためにわざわざここにやってきたの? 約束を果たすために?

 そう考えるとずいぶん義理堅いやつだ。

 一日しか生きていられないにしては、随分……なんだか聞いたら悲しくなるなぁ。

 と、思ってよく見たら純情のエミリアはかわいそうと瞳を潤ませていた。

 つい昨日まで自分たちの生死を左右して、生きるか死ぬかの選択を止めてきた恐ろしい相手に、そんな簡単にあなたは心を揺るがしてしまうの? まだまだ子供なエミリアだと、もし地上に連れて行って欲しいとか言われたら本当に連れて行きそうでシリルはどこか空恐ろしくなる。

 後輩はそこまで愚かじゃないと信じながら、続いてやってきたナターシャの発言を耳にする。


「ご心配なく。地上に行きたいとか言いませんから」

「私の心まで読んだとか、そんなこと言わないわよね?」

「もちろんそんなことはできません。このダンジョンの中でなされた会話や光景、その全てがダンジョンコアに記録されておりますので、そこから必要な情報を引っ張ってきてみんなで共有して、それでやり取りしてるだけです」

「今、みんなって言った?」

「みんなです。私のような名前を付けられた移動用の別個体。あなた達が言うところの爆破モンスター「ハサイヒメ」。私たちは移動できる小型のダンジョンコアと同じ仕組みです」

「知りたくない現実が増えた。だから昨日、会ったって言ったのね」

「そういうことです。でもわらわらと他にはしませんのでご安心ください」

「?」


 今一つ言われてる意味が理解できない。

 ダンジョンコアの別個体だとしてそれを統率するものは最下層にいるわけで。もちろん動くことが出来ないからナターシャのような存在を創り出したのだろうけど。


「十五層から上に上がることができないのです。でも降りることができるのは一番下まで降りることができます。意味分かりますか?」

「まさかとは思うけど……侵入者を撃退してる?」

「正解です。さすがシリルさんは頭は良いですね。エミリアさんとは大違い」

「ちょっと!」


 話をする相手が自分から先輩に変わった後輩はほうっと安堵の溜息を吐いていたが、今の馬鹿にされた一言でつい大声が出てしまった。

 ナターシャはふふん、と得意そうな顔をしてエミリアに語りかけた。


「エミリアさんは義理堅い人ですから。真面目な人だと思うので約束といえば必ず何かをしてくれると思いました。最も教えてもらったのかあのスキルだったので、私としてはもう少し役に立つもの欲しかったんですけど」

「どういう意味ですか! 人を馬鹿にするにも程がありますよ!」

「馬鹿になんてしていませんよ。ただ、こちらの要求が通りそうな相手を選んだというだけの話です」

「それをバカにしているって言うんです!」

「理解できません」


 そう言ってナターシャは、今度は皮肉を込めた微笑みを浮かべてみせる。

 いやいや理解できないなんてことないでしょう。

 二十四時間しか生きられないとかいいながら、新しく生み出された個体に、前の個体が記憶したものをそのまま受け継いでいる……これはこれで進化というものでもないかもしれないけれど。

 いつかは増殖的な進化をとげてもおかしくない。

 そうなった時、彼女たちは何をするだろう。

 おとなしくこのダンジョンの最下層に止まっていてくれるだろうか。

 それとも、まだ見たことのない太陽や月といったさっき口にした単語を見たいと望むのだろうか。

 あの時、ただの団子に過ぎない天体の名前を口にしたとき、ナターシャのひとみはとても潤んでいて好奇心に満ち溢れていなかっただろうか。


「あ、あなたたちの欲しがっているスキルって一体……?」

「おや、理解できませんか? 賢いシリルさんならもう御存知かと思っていました」

「面白くないことを言ってくれるわねー。そういう意味なら、さっきの壁抜けだって応用すれば使えるじゃない。あなたたちのやりたいことに」

「そういう考えもありますかー。でもそこに至るまで、魔法に関してはまだまだ時間がかかりそうなので、待つことができないと思います。それまで生きているかも分かりませんし」

「あなた自身の生きている時間、って意味じゃなさそうね」

「もちろんそれはそうです。私たちはダンジョンコア、によって生成され生み出されている。ただそれだけですから」


 もしそうなのだとしたら。

 ダンジョンそのものが意思を持って明確な知性を芽生えさせたことになる。

 恐怖心が心の片隅に生まれてくる。

 あのバカ猫を連れてきたほうがよかった。朝から用事があるとかで逃げられたけど、探してでもそうするべきだった。

 シリルは迷う。

 このダンジョン、そのものを消滅させた方がいいのかもしれない、と。


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