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王都のチートな裏ギルド嬢  作者: 秋津冴
2.ダンジョンの爆破魔

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5.素晴らしい魔法の才能


 それいけと背中を先輩に押されて後輩は項垂れたまま半分泣きそうな顔でナターシャの前に突き出された。

 それを見たハサイヒメはきょとんとして、


「大丈夫です? 顔色が悪いですよ?」


 なんてモンスターに心配されるものだから、エミリアの心はさらに悲しくなってしまう。


「何でもありません。何でもないんです、ええ。何でもありません」

「そうですかー。なんでもないなら別にいいですけど」

「ええ、何でもないの。それよりもあまり長く待たせても悪いから新しいスキルを勉強しましょうか」

「わーい、ありがとうございますー」


 ハサイヒメ。

 もとい、ナターシャは無邪気で元気いっぱいだ。

 教えてくれなきゃ破壊するぞ、と笑顔で脅しをかけていた昨日に比べたら全くの別人に見えた。

 モンスターに人格はあるかどうかはとても怪しいところだけど。


「壁抜け。そんなところでどうですか」

「壁抜け? それはどういうスキルですか」

「うーんと……分かりやすく言うと、自分が持っている魔力。魔素……瘴気にも近いけれど」

「ふむふむ」

「これもレベルが自分の力よりも低い所なら、こんな感じに」


 と言いながらエミリアは床上に散らばっている、赤ん坊くらいの岩を一つ、魔法で浮かび上がらせる。

 それは壁の大理石から剥がれたもので、同じ素材ながら繋がっていないと瘴気を発生させることができない。

 つまるところ、剥がれてしまえば、断絶してしまえば力は伝わらない。

 ダンジョンの壁や天井や床はどれもこれも密着しているから、壁抜けの魔法は使えないけれどこんな岩くらいならどうにでもすることができた。

  

「これをこういう感じで、こう……。魔法の一つではあるけど、この程度の術なら詠唱は必要とされてないから、モンスターのあなたならもっと簡単にできると思う」

「モンスター? ああ、私のことですね。その定義があやふやですけど、なるほど」

「岩の中にある魔素を自分の体内なものと同量か、それ以上にしてやれば存在率が増す、と。そんな理論ですか」

「……近しいものはあるかもしれない」

「だいたいわかりました」


 そう言ってナターシャはあっさりと自分の右腕を岩の中に通して見せた。

 嘘っ、とエミリアから悲鳴が上がる。

 これは簡単な初期魔法だけど、それにしても魔法を覚えたての生徒が反日はかけてやる作業なのに。

 見てすぐに覚えるというのはとんでもない才能。

 恐ろしいほどに正確で的確に物事を捉えることができないと、やってのけることができない。

 エミリアはそのことをよく知っていたから、背筋にどうしようもない寒気を覚えてしまった。


「私でも四歳の頃に三日かけて覚えたのに……」

「これあれですね」

「何でしょう」

「岩だからやりやすいんですね。エミリアさんやシリルさんのように、常にその中に魔力が充満していて全身をぐるぐると回っている状態だったら、どんなに強い魔力の持ち主でも貫通することはできないですね」

「あ、それはそう。固定化されたものでなければ突き抜けることができないの」

「なるほどー。だから壁抜け、くらいにしか利用できないと。ほむほむ」


 口調が、ふむふむから、ほむほむへと変化した。

 これはまずいとシリルがげっ、何て声を上げる。

 個性が発生してる可能性があまりにも高くなってきた。

 集合体みたいな感じで他のハサイヒメたちまで感情を持ち始めたら、これはとんでもないことになる。

 生きてしゃべって動くことができる、自己意識を持った自爆兵器の完成だ。


「……ダンジョンめ、何でも作り出してくれるのよ……」

「ダンジョンがどうかしましたか?」

「え、いいえ。こちらの話だから気にしないで。ほらエミリア、今度はあなたが学ぶ番よ」


 抜け目なくシリルのぼやきを耳にしたナターシャがそんなことを質問する。

 これ以上余計な知恵をつけられてはたまらないと、シリルはあわてて後輩に話を振った。

 後輩はまた自分がやらなきゃいけないんだと、憮然とした顔でそれを受ける。

 ナターシャの講義はあまりにも簡単でわかりやすいものだった。


「これなんて言うんでしたっけ。ああそうそう、作用する、でしたね。思い出しました」

「何をどこにどうしてどんなふうに、どうやって作用させるんですか? あなたの魔法は」

「魔法? スキルのことを魔法と呼ぶなら魔法かもしれません。生まれ持ったものですからあまり考えたことがなかった。私のこれはどう呼べばいいんでしょう」

「どう? 自爆魔法とか。他に向かって話すことができるなら、指向性の爆破魔法とか」

「なるほどなるほど。指向性ですか、新しい言葉ですね。あ、意味はなんとなく理解できます」

「いたっ!」


 お尻が硬い何かで叩かれて、悲鳴を上げるエミリアは後ろを振り返った。

 何事かと見ると、シリルが大きな宝石のついた魔法使いの杖の先で思いっきり、レミリアのお尻を容赦なくぶっ叩いたからだ。

 その口元は「余計な知恵を与えるな!」と無言で告げていた。


「大丈夫ですか? いじめられていたりします?」

「しません! もう叩かないで! それよりあなたもいじめっていう言葉はどこで覚えたの?」

「うーん……」


 エミリアの問題ないという発言を聞いてついでに質問を受けてナターシャはそうですねーと、自分の家族というか仲間というか種族について簡単に語ってしまった。

 その中にはエミリアがとても気になっていることが含まれていた。

 だってついさっき会った時、ナターシャはこう言ったからだ。

 自分は昨日生まれました、と。

 でも、昨日あったはずのハサイヒメはおとといも会っていると言っていた。

 昨日生まれたはずのものがおとといに行ってくることはありえない。

 だからそこに含まれてた答えに、シリルも含めて二人は絶句したのだった。



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