忘れんぼの君と
わたしの友達は、ちょっと変。
頭が大きなザクロなの。そこにはうさぎの耳も生えていて、体は木の枝みたいに細いんだ。
腕も細くて、ぜんぶで六本。動くたびにわさわさ、わさわさ音がする。
足もたくさんあるんだけど、頭が大きくて歩けない。そこに立ってるだけで精いっぱい。
頭でっかちのわたしの友達。名前は教えてくれないから、みんなは「クモウサさん」って呼んでるよ。
そんなわたしのことは、みんな「ワレモノさん」って呼んでるね。
わたしも頭が大きくて、四角い入れ物みたいだから。中には赤い液体が入ってて、いつもタプタプ揺れてるわ。
揺れてる音がわたしの言葉。だから今日も頭を揺らして、クモウサさんにごあいさつ。
「クモウサさん、クモウサさん、きょうはどんな気分ですか?」
走るわたしの足が滑る。
転んで、ぶつけて、ぱりんと割れて。
わたしの頭はくだけたの。
* * *
わたしの友達は、ちょっと変。
頭が大きなザクロなの。そこにはうさぎの耳も生えていて、体は木の枝みたいに細いんだ。
腕も細くて、ぜんぶで六本。動くたびにわさわさ、わさわさ音がする。
足もたくさんあるんだけど、頭が大きくて歩けない。そこに立ってるだけで精いっぱい。
頭でっかちのわたしの友達。名前は教えてくれないから、みんなは「クモウサさん」って呼んでるよ。
そんなわたしのことは、みんな「ワレモノさん」って呼んでるね。
わたしも頭が大きくて、四角い入れ物みたいだから。中には赤い液体が入ってて、いつもタプタプ揺れてるわ。
揺れてる音がわたしの言葉。だから今日も頭を揺らして、クモウサさんにごあいさつ。
「クモウサさん、クモウサさん、きょうはどんな気分ですか?」
走るわたしの足が滑る。
転んで、ぶつけて、ぱりんと割れて。
頭から赤い液がこぼれたわ。
* * *
わたしの友達は、ちょっと変。
頭が大きなザクロなの。あら、前にもこんな話をしたかしら。
みんなは彼を「クモウサさん」と呼んでいて、わたしは「ワレモノさん」って呼ばれるの。
いつか話した気がするわ。おかしな話。そんな記憶は無いのにね。
四角い頭を触って確認。中身が減ってる気がするけど、それはきっと気のせいよ。
わたしはクモウサさんに手を振って、頭を大きく揺らしたわ。
「クモウサさん、クモウサさん、きょうはどんな気分ですか?」
走るわたしの足が滑る。
転んで、ぶつけて、ぱりんと割れて。
わたしの記憶が欠けていく。
* * *
わたしの友達は、ちょっと変。
頭が大きなザクロなの。勝手な呼び名は「クモウサさん」
わたしは彼にあいさつするわ。一人で歩けない彼の元へ、いつもいつも走っていくの。
でもおかしいわ。わたしは彼の傍に着いた記憶も、手を握った記憶も、あいさつが返された記憶もないんだから。
頭を揺らして確認する。中身が減ってる気がするけど、それはきっと気のせいね。
わたしは大きく手を振って、今日もクモウサさんにごあいさつ。
と、思ったら。
「ハシッチャ ダメ」
先に喋ってくれたクモウサさん。
わたしはピタッと足を止め、クモウサさんは倒れてた。
「ハシッチャ ダメダヨ」
「わ、わ、だめだよ、だめです、クモウサさん!」
大きな声で返事をする。
クモウサさんは六本の腕ではってきた。いっしょうけんめい、はってきた。
「ソコニ イテ」
「あ、あ、わたしが行くよ、行きますよ」
「ボクガ イク。 キミハ イツモ オナジトコロデ コロブカラ」
「いつも? いつも? それはいったい何のこと、」
わたしは急いで、走って、クモウサさんに近づくわ。
そしたらわたしの足が滑るから。
転んで、ぶつけて、ぱりんと割れて。
わたしの意識がとけていく。
* * *
わたしの友達は、ちょっと変。
頭が大きなザクロなの。
わたしもきっと、ちょっと変。
頭が大きなガラスなの。薄くてもろくて透明で、中では赤い液が揺れてるわ。
今日も中身が減った気がする。あれれ、それでもわたしは、前はどこで中身が減ったと思ったの?
「ハシッチャ ダメダヨ」
クモウサさんの声がして、わたしは言われた通り歩いてみる。足をたくさん動かして、地面をはってる彼に向かって。
つかれたクモウサさんが座り込んで、わたしも隣に座ってみる。
あらあら不思議。今までごあいさつしてた筈なのに、隣に座るのは初めてなんだ。
「クモウサさん、クモウサさん、きょうはどんな気分ですか?」
「キョウハ トッテモ イイキブン」
「それはいい! 何か良いことがありました?」
「ヤット スタートラインニ タテタカラ」
「スタートライン? なにか始めるんですか? すてきですね、すてきですね」
拍手をしながらクモウサさんを見つめましょ。
彼はうさぎの耳をゆらゆら揺らし、二本の腕でわたしと手をつないでくれた。
「ナクシタ モノヲ サガシニ イコウ」
「無くしたもの? 何を無くされたんですか?」
「ダイジナ ダイジナ オモイデ ダヨ」
「それはたいへん! どこへ探しに行きますか? どこで無くされたんでしょう!」
「キミガ イッパイ コケタトコロヲ ミニイコウ」
「あれ、わたしは転んでしまいました?」
「ソウダヨ。 イッパイ イッパイ コロンデタ」
「ありゃありゃ、そんな」
「ソコデ タクサン ナガレテ デタカラ。 ワスレテ ナクシテ キチャッタネ」
クモウサさんに手を引かれ、立ち上がって、ふりかえる。
今まで走ってきた道で、わたしは何をなくしたの。
覚えてないから困ってしまう。
忘れているから、困ってしまう。
「ダイジョウブ。 ボクガ テヲ ツナイデル」
転びそうなクモウサさんが、いっしょうけんめい歩いてくれる。わたしもいっしょに歩き出し、クモウサさんがこけないように気を付けた。
クモウサさんはわたしが転ばないようにしてくれる。
だからわたしは、クモウサさんが転ばないようにしていよう。
ふたりで手をつないで、一歩一歩さがしにいく。
「クモウサさん、クモウサさん、さがすのは、わたしの思い出でいいんですか?」
「キミノ オモイデ トッテモダイジ。 ボクニ トッテ イチバン ダイジ」
「そうなんですね!」
「ソウナンダ。 ダカラ イッショニ サガシテ ナゾッテ ヒロイニ イコウ」
「それはとっても楽しそう!」
「キット トッテモ タノシイヨ」
手をつないで歩きましょう。支え合って進みましょう。
こぼしてしまった思い出を、さがして、なぞって、拾っていこう。
クモウサさんがいっしょなら、全部ひろえる気がするね。
それはどうしてなんでしょう。知っていますか、クモウサさん。
「チャント サガセバ ワカルヨ キット」
「そうなんですね!」
「ソウ。 ダカラ コロバナイヨウ キヲツケテ」
「手をつないでたら転びませんよ。クモウサさんも、つかれたら言ってくださいね」
「チャント イウヨ ダイジョウブ」
わたしの友達は、ちょっと変。
頭が大きなザクロなの。そこにはうさぎの耳も生えていて、体は木の枝みたいに細いんだ。
彼の呼び名は「クモウサさん」
見た目はちょっと変だけど、とても優しい友達だ。
わたしは彼と探しに行く。
わたしがこぼした思い出を、ゆっくりゆっくり探しに行く。
のんびり探しにいきましょう。
***
作者の夢に出てきた異形さん達。
頁を捲って頂き、ありがとうございました。