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第16話 青空の本気2

 朝での出来事は序章にすぎず、青空の大胆さがとどまることはなかった。



「夕奈、今いいか?」

「……なに?」

「こないだ立て替えてもらったみたいで悪かったな、助かったよ」



 財布から千円札を取り出し、夕奈に渡す。



「釣はいらない。好きに使ってくれよ」

「……したり顔しちゃって、よっぽどその台詞を言いたかったんでしょ? まぁ遠慮なく貰っておくけど」

「よくわかったな」

「まあね。ところでさ――」



 夕奈は俺の横にいる人物に視線を移す。



「これだけの為に二人でくる必要ある? というか青空さんはどうしてずっと真琴の袖を掴んでるの?」

「あっと、これはだな、上手く説明ができないというかむしろ説明して欲しいというか――」

「――華美さんと! できる限り、一緒に、いたい、から、です…………」



 俺の言葉を遮って夕奈に答えた青空。勢いがあったのは最初だけで、徐々に声が小さくなっていった。



「ヒューヒューッ! 熱々じゃねえかこの野郎ッ!」

「もう結婚しちゃいなよ! あ、冗談だから本気にしないでね? 華美君」



 教室でイチャついているのをクラスメイト達が見逃してくれるはずもなく、茶化してくる。


 あーちきしょう、自分だけが注目されるぶんにはいいが、これは何というかその――シンプルに恥ずかしいッ!



「あ、アハハ……見せつけてくれるじゃん二人とも。羨ましすぎだぞ、このこの……」



 一方夕奈は久しぶりに笑いましたみたいなぎこちない笑顔を浮かべながら、そこそこの威力で俺の腹を小突いてきた。



「痛い、痛いから。てか無理して周りに合わせてるからか、顔めちゃくちゃ怖いよ? ――あごめんなさい冗談です、冗談ですからそう睨まないで」



 夕奈の射るような視線を受け、すぐさま謝罪の言葉を口にした俺は、もひとつおまけに「すいませんでした」と一礼を加えて、青空と共にその場を後にした。


 ――――――――――――。


「行きましょう、華美さん」

「あ、おう」



 次の授業は音楽。俺は必要な教科書を手に取り、青空と一緒に教室を出た。



「きゃッ!」

「あぶな――」



 教室から音楽室へと移動中、横を歩いていた青空がつまずき転びそうになったところを、俺は咄嗟の判断で抱きとめた。



「大丈夫か?」

「は、はい。ありがとうございま――」



 俺の胸に頭を預けていた青空が顔を上げ、目が合った瞬間、彼女は言葉を言い切らずに硬直。



「す、す、す――――スゥッ!」



 したかと思えば、再び俺の胸に顔をうずくめてしまった青空。


 そ、そ――それは反則でしょおおおおおおおおおおおおおおッ!



「だ、大丈夫なら良かった…………」



 あははと苦笑いを浮かべつつ、俺はやんわりと青空を引き離そうとするが、



「もうちょっとだけこのまま、落ち着かせてください」



 彼女はいやいやと首を横に振り、くぐもった声で言った。


 いや無理無理! 俺が落ち着けないから! 心臓バックバクだから! 青空さん、ここ四季公園じゃないですよ? 校内ですよ? もうちょっと人の目気にしよ!



「……華美さんも、ドキドキしてくれてるんですね」

「え、え?」

「鼓動の音、凄く早いですよ?」



 やめてやめて意識しちゃうからやめて! 心臓に負荷かかるらやめて!



「――んでさぁ、あたしの彼氏がぁ…………」



 隣のクラスから数人の女子達が。


 んなッ――――⁉


 そこには朝陽の姿も。



「残念君だ~いた~ん」

「男気ある~」



 朝陽の友達であろう二人がニヤニヤしながら横を通っていった。


 残った朝陽はジト目で俺を見つめてくる。


 違うんだ朝陽! お前は絶対に誤解してると思うが、これは断じて違う! 信じてくれるよな? 俺はお前が信じてくれることを信じてるからな!


 青空にバレないよう、俺は朝陽に表情だけで伝えるのを試みた。


 すると想いが通じたのか朝陽はハッと目を見開き、ポンと手のひらに拳のハンコを押した。



「お幸せにね!」



 …………え?



「――ヒナ~。はやくしろ~」

「待って今行くから!」



 呼ばれて行ってしまった朝陽。


 ……………………え?


 ――――――――――――。


 昼休み。青空がお昼は外で食べたいとのことで、中庭のベンチで昼食。


 どうやら俺の分の弁当も作ってくれたらしいのだが……青空はなかなか渡してくれない。それどころか、



「……あーん、です」



 箸の先端に挟まれた卵焼きが俺の口元に。



「……そこまでしてもらわなくても、自分で食うから」

「あ……あーん」

「あれ? 今の聞いてた?」

「…………あーん」



 青空は一向に箸を下げようとしない。目の前ではプルプルと震えてる卵焼きが。



「早く、してくれないと、卵焼き、落ちちゃいます」



 ついには声まで震えだす青空。


 ああもう、いただきまあああああすッ!



「あーんッ!」



 ――グシャリッ!


 口に入れると同時に、近くから軽く乾いたような音が聞こえた。


 俺は音がした方へ目だけを動かして見る。そこにはジュース缶を片手で潰し、顔を濡らした月見山が立っていた。



「し、し、し…………死んじゃえええええええええええッ!」



 えええええええッ⁉ というかこの卵焼き美味すぎいいいいいいいいッ!

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