バイオフィリア
その周辺だけ、汗ばむほどの湿度を保っていた。地鳴りに似た低い響きが耳元で鳴り続けている。それが暖かく感じられたのは最初の数分で、身体の内から滲み出るような湿気にすぐにジャケットを着ていられなくなる。急激な気温変化に身体が追い付いていない。外の様子は分からなかった。自分の身長をはるかに超えた無数の植物が高密度に存在し、葉を広げている。分からないのはそのためだった。一般に樹木と呼ばれる種類のものは一つも見当たらず、生えているのは全て草本の類い、名称は不明だがそれが熱帯地域に分布する植物であることは明白だった。
いわゆる、外界と隔離された熱帯植物園、或いはそれに類した温室であることは疑いいれないのだが、腑に落ちないのはその植物の背丈だった。ゆうに30mを超えるような草本が周囲を覆うように延びている。熱帯植物に造詣が深いわけではなかった。同じ地上に生きる一生物として、その姿が異様に映ったのだ。
─バイオフィリックプラネットの実現に向けて─
人間には先天的に「自然を好む性質=バイオフィリア(biophilia)」が備わっています。
例えば、森を歩くだけで癒されたり、雨音や鳥のさえずりを聞くだけで心が落ち着いたりするのは、私たちが生まれながらに持っているバイオフィリアの作用によるものです。
私達はバイオフィリアの観念に基づいて地球温暖化の要因であるCO2量の削減に取り組んでいます。
現在、植物によるCO2の固定においては、樹木と比較して生命活動の周期が短い草本が注目されています。微生物による分解が速く、炭素が土壌に留まる必要がないことも特徴の1つです。
植物の光合成による高酸素状態の持続が実現すれば、代謝促進による植物の肥大成長が可能になります。
肥大成長した植物はより一層のCO2を取り込み、更なる温室効果ガスの削減に寄与します。
私達はこれらの肥大植物が地球上で生命活動を存続できるよう、維持管理に取り組んでいます。
植物によって地球を救う─バイオフィリックプラネット─の実現が、私達の願いです。
空を見上げた。透明なガラス窓越しに陽射しが入ってくる。スマートフォンが示す温度は49℃を記録していた。ジャケットを抱えている左腕が馬鹿馬鹿しく思えた。何かに躓き、体勢が崩れる。根のようなものが地表を這っていた。汗で全身が蒸れ、息苦しさが押し寄せる。耳元でまといついていた地鳴りのような響きが大きくなった。振り返ると蝿のような生物が羽ばたいていた。極端な暑さのせいだろうか、80㎝程の蝿が、こちらを見つめている。