表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界で目覚めたら魔法探偵少女に犯人扱いされました  作者: KP-おおふじさん
第五章 魔法探偵少女に犯人扱いされました
27/36

26:最終局面へ

「え、え、えええええええええ!?」


 マリナが確定事項のように言い切った言葉にセイは仰天して大声を上げながら思わず立ち上がる。


「今までのなんちゃって推理じゃあたくさんの要素が欠けるのはわかるだろ。それを埋めるピースはセイ、お前なんだ」


「ちょ、ちょっと待てよマリナ、今君はこう言ったのか、俺が犯人だって……! 真犯人!? どゆこと!?」


 セイは向けられた銃口にビクビクしながら少し下がってマリナから距離を取ろうとしている。マリナは背後のクインにも気を配りながら、セイと同様に自分の背を壁に預けるように動いた。


「言葉の通りだ。お前の言動は最初から……初めて会ったときからおかしかった。何が異世界だ、見たこともあるまいよ。どこかの本かなにかから得た知識に妄想を膨らませて話していただけだろう。私にそんな嘘は……もう、通じない」


「えっと……ちょっと待てちょっと待て。本当に俺は異世界人なんだよ! 魔法が無い世界で……ニッポンっていう国のサイタマって場所から変な光に巻き込まれて、気がついたらここにいたんだ! 最初に話しただろう!?」


「嘘だ。最初に私と異世界の話をした時、お前は早口に語ったり視線を左上に向けたりまばたきの回数を増やしていたりした。つまり”用意していた答えを言っている”か”思い出したり設定を作ったり”しながら話してたってことだ。最近じゃしれっと話しているけど、それはお前がその架空の異世界についての設定を固めたからだな。そのせいで私も……お前と長く居たせいで錯覚させられていたよ」


「なんだ……マリナ、さっきの推理よりも酷いぞ、ひょっとしてなにかの作戦か……? 誰かの何かを暴こうとして……?」


 ビクビクしながら不安な表情でマリナに問いかけているが、マリナは凛々しい表情を崩すこと無く言い返した。


「もう暴いたんだよ、セイ。キワは怯えないでいいよ。私が背後を向けた時、こいつは私に”何か”しようとしたな?」


 キワが唇を噛み、両眉を少し上げて言葉で否定する。――「いいえ、何も見ていません、けど……」――この言葉は嘘だと今のマリナにはハッキリわかる。


「……魔法か? 私を殺そうとでもしたのか?」


 マリナは確信を得、改めて構え直すようにセイに銃口を突きつけている。照準は鼻っ柱に。短身砲は精度が甘いため狙いが逸れやすいが、この距離なら顔のどこかには当たるだろう。


「マリナ……怖いぞマリナ……ちゃんと説明してくれ、自分でも理解が追いつかない……」


 セイは無害を表すように両手を上げながら弱々しくそう言って、わずかながら目の周りの筋肉をピクと収縮させた。その様子にマリナが嫌悪感を覚えている。


「なんなんだお前……どうしてこの状況で喜んでいる……? そうか、待ち望んでいたのはこの状況か……いいよ、一から説明する」


 ストレンジャーを相手の顔に目掛けて構え続けるのはマリナにはそれなりに重労働であったため腕を楽な位置まで下げつつ、それでも両手でしっかりと、常にセイの体を捉えながら話を始めた。


「まず……お前は嘘が上手かった。もう少しでいろいろと信じてしまうところだったよ。最初の出会いでもう私はお前を可哀そうなヤツだと思わされていた。突然私の元へ現れて、異世界から迷い込んだらしいなどと世迷い言なんて……」


 それを言うマリナの表情はセイを責めるようなものではなく、自分が与太話を信じてしまいそうになっていた事に対する後悔を含んでいて、苦虫を噛み潰したような、苦しさと悲しさを孕んだものであった。


「本気で言ってるのか、マリナ……列車に入ってから読心の魔法が効かないって、こういう事なんじゃないのか……?」


 セイはマリナを心配するように言っている。先程の推理もそうだし、この展開もそうだ。マリナに何かが起きているとしか思えない……セイもまた苦しそうな表情をしていた。だがマリナは再び凛とした表情を作ると、セイを真っ直ぐ見て言う。


「その事だって説明がつく。今ここにいる全員が常に嘘をつき続けていたんだ。私が的確に心を読むために必要なのは”平時と嘘をついた時の態度や感情の幅”でね、この列車は初めから狼と羊しかいないことを知りながらわからないふりをし続けて常に緊張している人たちを見れば私の読心だってそりゃあ効き難くもなるよ。でもそうして緊張していることを加味すれば、私の読心魔法は揺るがずに真偽を見抜く事ができる。私が振り回される様子は見ていて楽しかったか? セイ」


「楽しいって、何を言ってるんだ……!」


 だんだんと犯人扱いされるのが怖くなってきたセイがほんの少し強くした語調から拒否感を表している事はマリナには理解されているはずだが、マリナはそれでもセイを威圧するような態度をやめずに改めて事件の推理を話し始める。


「お前をしっかり要素に組み込んでもう一度推理するぞ。まず第一の事件からだ。馬鹿みたいに簡単だよ。クトリクが夜食を食べたがりカンラを連れ出す、理由はなんだってよかったはずだ。クトリクが少し駄々をこねればカンラはなんだってやろうとするはずだから。そうしてクインに交渉し……まぁそれは計画通りなんだろうが、クインとカンラが一緒におやつを作って、生地が出来たらセイが……多分だけどお前は電気の魔法使いだから、その魔法を使いカンラを気絶させ、そのままクインが殺してしまう。そうだろうクトリク、セイは本当はキッチンの方へ入っているね?」


 マリナはふいっと視線をクトリクに向けながら軽く質問を投げかけると、クトリクは口を結んでごくりと唾液を飲み込む動作をしてマリナはその意を読み取り、そのまま話を続ける。


「……本人はイエスだそうだ。セイはラウンジ車へ戻ってから返り血なんかを浴びないようにクインがカンラを何度も刺して、血なんて洗い落とさないでもそこにいる全員が共犯であれば必要ない。あとは適当にそれらしく見えるように時間配分を見てセイが私を呼びに来ればいいだけだ」


 これで解決だと、マリナはセイを睨みつける。だがセイは気絶しそうな思いをしながら反論した。


「言っただろうマリナ、俺はニッポン人で、魔法なんてッ……」


 セイは身を乗り出し全身で気持ちを表現し、周りの人間からはそれが本当であるように見えている。だがマリナは否定の言葉を以て断言した。


「いいや、使えるさ。絶対に使える。お前の反応がな、使える側の人間の反応なんだよ。次、第二の事件……殴られたお前と、さっきから私に殺意を垂れ流しているクインの事だけど」


 セイの様子に構わず指折りながら次の事件の話に進めていき、セイは苦い表情で黙り込んでしまう。


「ヒントは瞳孔だった。クインはどうしてセイを見ると瞳孔を広げて呼吸を速めるのか。私とセイが並んでいる時もそうだけど、セイに話しかける時だけ語調が強かったしセイを見て無意識に唇に舌を当ててる。これは相手に好意を寄せている証拠だな。お前が殴られたあとのクインの態度が、それはそれはお前に恐縮しているようだった。元彼に似ている? 嘘をつけ、クインのはセイに心酔する信者の行動に等しい。お前たちが協力関係にあることはもうわかっている」


 その言葉にクインは目を見開いてセイを見るが、セイは微動もせずにマリナを見つめて首を振って言った。


「そんな関係だったとして、なんで俺が殴られなきゃならないんだ……?」


「この列車に招かれざる客が乗っているかもしれないという話をした後だっただろう。だから捜査撹乱のためでもあるし、私を揺さぶるためにブロウドの部屋を調べさせるためでもあったはずだよ」


「なんだそれ、俺にわからないことでそんな風に決めつけて……」


 セイの弱々しい反論もピシャリと遮るように、マリナは更に説明を続ける。


「次、第三の事件。ブロウドの件だ。これは概ねさっき説明した通りだろう。ただこの事件だけは他の事件に比べてわかりやすさが群を抜いている。明らかに水魔法の痕跡でのみの殺害方法。誰がどう推理しようと、たとえここに憲衛の捜査と捜査道具のフルセットがあったってまず間違いなく犯人が一人しか挙がらない。死亡推定時刻に自由に部屋を出入りできて水の魔法を使うクインだけだ。ただ、お前が重要視したのはブロウドの死に方じゃない、その前後に付随する部分が重要だったんじゃないか?」


「付随する部分……?」


「さっきも言ったけど私の魔法を揺さぶる事。積み重なっていたこともあるけどね、あのときは本当に自信を喪失しそうになった。キワは明らかに聞いてない音を聞いたと言って、私は嘘だとわかっていたのにキワの言った通りだったからね。そして犯人がクインであるという考えになるように調整してたんだ、バカでもわかるように。遊ばれていたな、完全に」


 でもそうはならないとマリナは瞳で語る。嘘は真実を混ぜるとわかりにくくなるもので、ここでクインが犯人だとわかりやすく提示することでその後の状況を掌握しようというのが真犯人の考えなのだろうとマリナは考えた。


「俺が遊ばれてる気分だ……」


 マリナの言葉を返すようにセイはそう呟いた。最早そんな様子も取り合わず、マリナは手汗をにじませながら持つストレンジャーを握り直して話を続ける。


「そして最後の事件……これはどう転んでほしかったんだ? クインに犯行は不可能だと見せつけ、私がアスルやキワ、クトリクを犯人扱いし、それでも嘘を見抜けないことで自信を喪失してほしかったのか? それとも自分が犯人だと暴いてほしかったのか?……アラツを殺した犯人はお前だな、セイ」


 マリナはその言葉を言い切るまでに長めの呼吸を二度ほど置いている。意を決した最後の言葉は特に強い意志が込められている。逆に言えば、込めなければ言えなかったのだろう。


「おい、冗談でもッ……」


 まるで黒幕のように言われていただけであったセイだが、ここに来ていよいよ殺人犯扱いされたことにショックを禁じ得ず、セイは静かな怒りを言葉に込めてそう言いかけるのだが、マリナはその言葉すら遮って断言する。


「いや、お前だ。お前の聞いた足音の話もそうだし、今そうやって本気で否定する態度もそうだが、お前は本当に嘘がうまい。私でなければお前に同情までするだろうね。なぁセイ、お前は今まで……私と会うまでは何をやってきたんだ? 人間性が乖離するほどにスタンダードの人格を何重にも手に入れていなければ、普通そこまでの嘘はつけない。お前はとんでもない反社会性人格障害をきたしている。殺人を起こして態度を乱れさせないクインもかなりの悪玉だろうが、お前はその上を行ってるよ。これまで一体何人殺してきた? ……呼吸するかのように殺すことが出来るほど手慣れているはずだ、あの切り口はとても鮮やかだったしね。だからアラツが数秒の間死なないように殺すことも出来た」


 セイがどんな行動を取ろうとも自分のほうが早く動くことを意識し、マリナはストレンジャーのトリガーに指を半分引っ掛けながらそう言った。それに対してセイは泣きそうになりながら言葉を返す。


「マリナ! もうやめてくれ! 犯人扱いなんてッ!!」


 だがやはりマリナは聞かない。最後の事件についての見解をつらつらと話し始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ