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24:無茶苦茶な推論

「セイはそういう表情をするけどね。クインが犯人であることを仮定すればいろいろと繋がっていくんだ。君が殴られた時だけど、あの時はどうして展望車にいたんだ?」


「クインさんがゆっくり話すなら移動しようって……俺はついていっただけだけど……」


「お前、クインと話す時は隙だらけだっただろう? すごくデレデレしてたし、二人っきりになったら簡単に気ぐらい失えるって状態だったな?」


 マリナは目を細めて責めるように言った。


「否定しないけど……じゃあ俺、クインさんにぶん殴られたってこと……? いやでも、クインさんだって頭を打って……」


「それは簡単だよ、セイの背中をぶん殴られるのは他人にしか出来ないけど、頭を打つなんて自分で簡単に出来るだろう? クインは自演したのさ」


 それは確かにできるのかも知れないし、状況的に不可能ではないことをわかっているセイはゆっくりとクインを見た。


「そうなんですか……? クインさん……」


「私……」


 クインは何かを言いかけるように口を開き、だが何も言わずに下に口角を押し下げるように(つぐ)んでマリナとセイから視線と下に逸らしている。


「そうして次はブロウドが消えた話になっていくね。さて、あの時ブロウドはどこにいたと思う?」


「あの隠し部屋か……? いや、それなら誰かに見られてるから……レストラン車までは行けないとなると……アスルさんかキワさんの部屋にいた……?」


「その通り。キワだね、ブロウドを部屋に入れていたのは」


 キワは指摘された際、机の上に置いていた手の指を一瞬ピクつかせ、魔法全開のマリナに反応を見られたことでそれが真実であることを暗に教えた。ここは的確に見抜いているらしいことをセイも悟った。


「でもあの部屋のカギは外からもかかってて、カギはクインさんしか……あっ……」


「そう、クインさんが開けていたんだ。それからキワが部屋に連れ込んだ。ブロウドはキワにも気を持っていたようだったからそこは簡単だったろうね。それでキワは予め渡されていたのか、用意していた薬か何かを彼に盛ったんだろう。ブロウドの着衣にはなんの乱れもなかったのを覚えてるか? 彼は抵抗する事も縄で縛り付けられ、それから溺れて死んだはずだ。もちろん水魔法によって窒息させられてね。セイ、水魔法をこの殺人にどうやって使うかは推理出来る?」


「水魔法……」


 セイはこの列車でみたクインの魔法を回想する。確か大気から水玉を作り出し、それが手のひら大の水の球体になってふわふわと、まるで宇宙空間での水のように浮き立つ様子を見ていた。その水の球で呼吸する部分を覆うとどうなるだろうか。


「そうだな……口と鼻だけを覆えるだけの水をブロウドさんの顔につけておく……?」


 そのセイの推理に、マリナは再び満足そうな声で頷きながら言う。


「全くその通りだよ。ブロウドが死んでから早い段階で検死ができればまず間違いなく彼の胃からは魔掌紋の残る水が出てくる。クインの魔掌紋と一致するはずだよ」


 だがセイはやはりクインをかばいたい気持ちがあるのだろう、反論事項を思いつく度に聞き返した。


「でも、いつ? それにブロウドさんの巨体をクインさん一人で運べないだろう?」


「アスルとキワがいるだろう。彼らはあの時遺体を発見するまで動揺は無かったことを考えれば、時系列としては多分、キワがブロウドを部屋に置いて薬を飲ませ、その後で私がいないことを確認して……それから私がセイの回復を待っている間にキワとアスルが眠っているブロウドを部屋に戻して、クインがラウンジに人を集めると言って出ていった時にブロウドを殺害出来る」


 つまり、クインには長い自由時間があったということだ。マリナはセイのために後方展望車で釘付けだった以上、後方スイートをアスルとキワとクインで独占すれば工作し放題であると言っている。


「でも……何故ブロウドさんを部屋からわざわざ連れ出す必要があったんだ? マリナにそれを確認させて……一度いないようにさせる必要があったのか……?」


 セイは自分でも良い思いつきをしたと思った。軟禁状態にあった人間をわざわざ外へ出す必要はないはずだ。飲み物でも差し入れてその中に薬を入れておくという手もあるだろう。その問についてマリナはこう答える。


「多分、その方がブロウドが油断するからじゃないかな。キワが部屋に行って薬を飲ませるより、自分の部屋に呼んで飲ませる方が自然だろう?」


 その言葉にセイは再び内心で呆れ、信じられないと苦い表情で小さく反論する。


「そんな理由で……マリナ、本当にそんな理由でブロウドさんはキワさんの部屋に行ったのかな……俺には何か別の意図があるような気がするけど……キワさん、何か隠してるんじゃないのか? 本当は何か……」


 キワはセイに目を合わせずに足元を見つめるのみで何も答えはしなかった。マリナもセイの疑問に取り合うこと無く、一直線に黒幕的な犯人であると見定めたクインに噛み付くように推理を向かわせている。


「クイン、そうなんだろう? 犯人はあなた。でも何故こんな事を? この乗客らはみんな意図的に集められてるようだけど……どうして私を呼んだ? これが望みだったのか?」


「それは……」


 中途半端な推理で犯人を確定しようとするマリナに、セイは焦ったように被せて推理の続きを要求する。


「ちょっと待てマリナっ、まだ最後の……アラツさんの事件は? だって君が犯人だというクインさんは……マリナ、君の目の前に居続けたんだぞ? 犯行は無理じゃないのか……?」


 そもそも最後の事件のせいで”犯人が誰か”絞れないのだ。それを無視して解決出来るわけがない。だがマリナは気にしないように頷いてあっけらかんとこんな事を言い始めた。


「うん、実はそれについては私もまだわかっていないんだ。でも何か方法があるはず……私は人の嘘を見抜けるけど、トリックを考えるようなことはしてこなかったから……でも犯人はクインで間違いない。もしかしたら一番動機を持っているはずのスンさんかもしれないけど」


 ここ一番というところで、マリナは推理をそんな風に投げたのだ。犯人だとわかったから犯人。……セイはもう、表情を隠さなかった。マリナ自身、トリックを考えられないと言いながら犯人を断定するとは。それで今まで憲衛の事件を解決に導いていたのか? そんな戸惑いがセイの中に渦巻いている。


 もうマリナの読心魔法がなんぼのものだと、心から苦々しい、困惑した表情で最後の事件を順を追った推理に立ち上げ直すべく、セイは気を取り直し強い口調で提案する。


「そんな推理は無いぞマリナ……これに関しては最初から考えよう、アラツさんは何故捜索を一人で切り上げて展望車に一人で来ていたんだ? それに……俺たちが展望車に上がったときにちょうど彼は亡くなったんだ……その説明がつかなきゃ事件は解決したとは言えないはずだろ」


 セイは指を顎にあてて、真剣な表情でそう言った。


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