22:推理開始
マリナとセイはラウンジ車に戻るが、その前にマリナは念の為再び前方の展望車、スタッフ室入り口につけた髪の毛を確認した。そこは確実に開いていおらず、スタッフ室内部の人間が絶対に外へ出ていない事の証明になった。犯人と犯罪に関わった人間は今ラウンジ車にいることが確定する。
足取りを重くラウンジ車へ戻りながらのマリナが一人考えるのは、犯人に対してどうアプローチすべきなのかという事。
マリナの想定した事態が本当にこの列車で起こっているのであれば、勝算が殆どないことを既に自身が把握しているのだ。相手はマリナをたやすく殺すことも出来るだろう。しかもここにおいて犯人はマリナ一人を狙い撃ちにするという予想がついている。もしかしたらクトリクら他の乗客、セイという人間もこの世から消えるのだろうなという考えで、ラウンジ車までの通路を歩いていた。
だが勝算はゼロではなく、マリナにとっては大逆転にリーチがかかっている状況であることも同時に把握していた。マリナはポケットから取り出した短身砲ストレンジャーに銃弾を押し込み、再びポケットへそれを隠すとラウンジ車を開く。
全員の視線が集まり、マリナが何をしてくるのか聞いていたセイが「どうだった?」と駆けて尋ね、マリナはそれに「扉はやっぱり閉まってた。やっぱり犯人はここだ」と伝えた。セイは腑に落ちなさそうに言う。
「それがどうしても信じられない。さっきマリナはまるでクインさんが犯人みたいに言ってたけど、それじゃカンラさんとアラツさんの件が噛み合わないじゃないか……俺も考えたんだけど、やっぱり招かれざる客はいると思う。思い出してみてくれ、俺たちはその人を見てるじゃないか」
「見てる?」
セイは深刻に頷きクインに少し大きな声で尋ねた。
「クインさん……昨日の夜に影を見たと言っていたでしょう。その影って、大きめっていうか、太めな男の影だったんじゃないですか?」
「どうでしょう、でも言われてみれば、細くはなかったかも……」
クインはセイの質問に対し、思い出したようにすぐに答えた。その様子をマリナは射抜くように見て動向を見守っている。
「やっぱり……! 犯人はあの人なんじゃないか? ほら、出発前にここに来て、クインさんに絡んでたさ、この列車に乗れなかった乗客の男性……!」
セイはどうだ! と自分の推理を披露するのだが、マリナはつまらなそうに一言を返す。
「そういえばいたっけね」
「そうだよ! この列車はそもそも他の人には秘密だったはずなのに、あの人は知ってたわけで……本当はチケットでしれっと乗って実行しようとしていた殺人計画だったけど、クインさんが乗せなかったために秘密裏にどこからか乗り込んでずっとあの隠し部屋に隠れながら殺害を実行していた……とか」
どうかな? とセイ。マリナはセイの言葉に少しの同調も見せず、お門違いすぎる言葉に対し呆れたように言う。
「無理でしょ、あの体でどこに隠れるんだ?」
それはそうだろう、先程の隠し部屋であってもマリナなら足を曲げれば寝転がれるかも知れないが、話に上がっている男には不可能だ。体育座りで眠れないこともないかもしれないが、誰にも見つからないように機敏に動く事は出来ないだろう。
「でも……そうじゃなきゃ……俺にはどうしても思えないんだ、この中に殺人犯がいるなんて……」
そう言って落ち込んだセイに対し、マリナは彼の顔を見て、ハッキリとした口調でこう言った。
「うん。じゃあセイ、これから私がまとめていくうちに自分の推理を披露してみるといいよ、もしかしたら私の推理が間違っている可能性もあるしね。それに誰かに聞きたいことがあれば私が聞いて本当か嘘かを見抜く。私の助手になりたいんだろう? 君が別の場所から来たと言うなら、その想像の幅で何か閃くかもしれないからね」
「わかった」
セイは頷き、乗客全体を見つめ、マリナも同時に全員の前に立てる場所へ移る。
「さて、始めようか」
マリナは鼓動を抑え込みながら推理を始めた。