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15:見えないコソドロ

「……ということで、話は以上です。六番スイート『高天』に用がある際は必ず三人以上で、私やマリナさんに話してから行くようにしてくださいね」


 クインはいつの間にか話を終え、そこでマリナが自分の名前が出たことに丸い目でキョロキョロ全員を見回している。どうやら知らないうちにマリナが憲衛の関係者であると伝わってしまったようだ。


「マリナさんから何か注意事項はありますか?」


 あたふたしているマリナに追い打ちをかけるようにクインがそう言って再びマリナに視線を集めた。


「あやや、お、や、ん、あ! ぅ……」


 妙な声を上げて死ぬ前の魚みたいにジタバタしながら声を震わせているのを見かねたセイが「あー」と遮った。


「何かあったら俺が話を聞きますので」


 苦笑しながらセイは自分に視線を集めたことでマリナの平静はなんとか保たれる。それからクインがマリナに寄って耳打ちをした。


「あの、マリナさん、あの話はどうしますか……?」


 ハッとするマリナ。突然クインが話を振ったのは事前に伝えていた事を確かめるためだった事を思い出し、マリナはカチコチな動きで立ち上がって再び視線を集める。


「こ、この中に……いるか……?」


 声が小さくて耳を傾ける全員が目を細めたり首を傾げたりしている。その意味するところはマリナにもよくわかってはいたが、マリナは知らない人と話すのは一対一でも厳しいし、知っている人でも話し合う場に三人以上いると口数が極端に減る。


 今ここには自分以外に七人も集まって自分の話を聞いているのだから、それはもうテンパって言葉を絞り出すのもやっとではあったが、大切なあるものの仇を討つためにと自分を奮い立たせ、大声でこう言った。


「この中に、スイーツ泥棒はいるか!」


 仇とは消えたスイーツのことである。キョトンとする全員の表情を見つめ返すマリナは汗を流しながらではあるがその表情の微動を見逃さぬように目を凝らすのだが……。


「あ、あれ? なんで……」


 マリナは自分の魔法への疑心を増していく。何も見えない。クインを含めた乗客全員が知らないという反応である。


 この件については最初から説明を必要とするだろう。まず朝ごはんを食べに来たセイとマリナにクインが駆け寄り、危機感を持って告げたのは「冷凍していたスイーツのパックの一つがまるまる無くなっている」という話であった。


 それに対して「なんだと!?!?」とこれまで見せなかった熱を持って反応したマリナ。昨日は気付かなかったが、キッチンからあるスイーツが無くなっているという。


 ただ、無くなっているのは一部だけで、一日分ずらしても最終日のスイーツが無くなってしまうだけで済んだのは不幸中の幸いだとセイは言うが、マリナは熱を持って「許せない! 絶対に許さない! 潰す!」と宣言する。


 クインが話すに、キッチンを開けていたのは昨日のカンラの件の間だけで、マリナとセイもカギを閉めたのを見ているのだから、犯人はカギの開いていた時間のどこかでしか盗めなかったはずなのだ。


 となればカンラはひょっとしてスイーツ泥棒に殺害されたのではないか。「すべての犯人はそのスイーツ泥棒だコノヤロー!」……マリナはそんな推理を展開してセイが諌めるのだが、あながち間違ってないのかもしれない。


 今ここにスイーツを盗んだ犯人がいないのなら。


「なら……可能性として……あの……」


 再びボソボソとラウンジ車の全員に喋りかけるマリナだが、セイは既にその推測を聞いており、マリナの代わりに喋り始めた。


「もしかするとこの列車には、自分たち以外の誰かが乗っているかもしれないことになりました。というのも、昨日クインさんが怪しい人影を見ているということで。それとキッチンから食材が盗まれている事も明らかになったんです。もしかしたらカンラさんはその何者かに出くわしたことで殺されてしまったという可能性もあるのかもって……列車という限られた空間じゃ人が隠れるにも限界はあると思いますが……皆さん、そういうつもりで用心したほうが良いかもしれません」


 必ず最低二人で行動し、念のために戸締まりはしっかりと。そんな注意を促して解散となった。


 マリナは解散していく全員の表情を見てやはり首を傾げている。普通、謎の人殺しがいるかも知れない列車に乗り合わせた時に人はどんな気持ちになるだろうか。


 例えばアラツのように他人に怒りを抱くだろうか。それも稀にはあるだろうが。それともクトリクのように我関せず、無関心でどうでもいいというような投げやりな気持ちになるだろうか。


 セイは馬鹿みたいにワクワク感を抑えているが、特に目を見張ったのはアスルとキワで、彼らは現在一人部屋になっているのにもかかわらずほとんど恐怖感を感じていない……ようにマリナには見えた。


 だがその感情はその二人がここに入ってきた時の緊張感とは大きく矛盾しているのだ。相手が何を考えているのかわからない、そうなるとやはりマリナは「自分が読心を出来ていない」と考えてしまう。


「なぁマリナ! それでどうだった?! 犯人わかった?! 魔法で見えたかっ?」


 乗客のほとんどが退室したラウンジ車でセイが食いつくようにマリナの横に座った。


「いや。もしかしたらクイン氏の言った通り、本当にこの列車には他に誰か乗っているのかも。……と言っても、私の魔法もこの列車に乗ってから調子が悪いから、真犯人を見逃している可能性もあるんだけど……」


 なるべく気にしないように言ったのだが、口にして気持ち以上にショックを受けていることを自覚するマリナ。それを知ってか知らずか、セイは明るくこう言った。


「そうか……それじゃあさ、俺たちで力を合わせれば良くないか? 正式に探偵と助手になろうぜ! 相棒同士、この事件の謎を一緒に解き明かすんだよ!」


 胸を張ったそのセイの言葉にマリナはフッと小さく顔をほころばせ、それを隠すように自分の頬を片手の人差し指の爪で撫でながら言った。


「まぁ確かに、モリスもいないし……じゃあ役に立ってもらうか」


 実際、マリナが捜査するにせよ人とちゃんと話せる人は必要であるのだから、セイのように誰彼構わずズケズケと話しに行けるような人物は重宝するというものである。ところがクイン、また彼女だ。


「え……?」


 マリナが自分に向けられた眼差しに思わずそう声を出した。クインはマリナとセイの様子を乗車時に見せた射抜くような圧のある目で見つめていたのだ。マリナは恐る恐る「何……?」と尋ねると、クインは少し目線を泳がせ……。

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