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13:見えてこない犯人像

 次の日、連絡の取れない運転スタッフ以外の全員が集まって現状についてのまとめを話し合うという名目で集合がかけられていたが、その前にブロウドと話をしておきたいとクインに打診したマリナはお昼ご飯を届ける時に付いてくるのはどうかと提案され、セイとクインとブロウドの部屋を訪ねていた。


 ブロウドの寝ている最奥のスイートにて、クインが外カギを外して優しくノックすると寝起きの様子であったブロウドが静かに三人を出迎え、何の用事で来たのか計るようにじろりと見る。


「あ、あの、お食事です」


 クインは台車で運んできた食事を持ち、ブロウドの部屋に運び込む。軟禁状態ではあっても景色は楽しめるしこの部屋はスイートというだけあって非常に快適ということもあり、部屋から出なくとも旅行にはなっているというもので、本人は特に不満そうな様子もなく「うまそ……」と机に食事を運ぶクインの様子を後ろから見ている。


 食事はもちろんだが特にお尻を見ているなと、一緒に見ているセイは内心でわかるぞと頷いた。


 ブロウドはやや不貞腐れたようにではあるが積極的に食事に手を出しながら「それで?」と三人がいっぺんに訪ねてきた様子についての疑問を呈すると、マリナが「あむむ」とモゴモゴ喋ろうと前に出た。


「昨日の夜、ブロウド氏……」


 マリナの歯切れの悪い言葉に対し、ブロウドはワードだけで不快感を表情に表している。セイがとんとんとマリナの肩をたたいて代弁する。


「ブロウドさん、昨日の夜レストラン車で隠れてたって本当ですか?」


「はっ? 隠れてたって? なんでそんなことしなきゃならねぇの?」


 その反応を引き出したセイはマリナに「どう?」というアイコンタクトを送るとマリナは首を振り、つまり「ブロウドは”多分”隠れていなかった」ことをこの列車で発動した読心の魔法の中でもそれなりに自信を持って判断した。


「おいちょっと待てよ、どういうことだ? ……アスルが何か吹き込んだのか?」


 今の唐突な質問についてブロウドはそう尋ねた。アスルについてかなり警戒心を抱いていることがわかるような口調だった。


「いや、そういうことではないですよ。そいやなんかお二人、友達みたいだったのに、すごい険悪っぽいっすけど、何があったか聞いてもいいですか?」


 またセイは何も悪気なくズケズケと二人の関係を聞いている。マリナはもう部屋の外に出ようとしていたがその話には興味があったのか立ち止まって振り向いた。ブロウドは顔を背け、料理に集中したいんだと言わんばかりにパンを手にとったが、その口は閉じられて口角は重そうに下がっている。マリナの魔法が読んだ感情は後悔だった。


 マリナはその時点でブロウド自身が何かの問題を起こした事……昨日アスルの言っていた人名が女性名だったことやカンラの件を持ち出して「また」という言葉を使っていた事を考えて、ブロウドは何か根深い女性問題を起こしている事を把握した。


 それからブロウドはこの件について口を開こうとせず、使ったお皿は夕食のときに取りに来ますと言ったクインの言葉に「あいよ」という程度で、その険悪な雰囲気を以てマリナたちを部屋から追い出した。


 結局、昨日クインの見た影は何だったのかわからず終いである。ひとまず影が高い確率でブロウドではなかったというのはマリナにはわかった。


 現状ではブロウド犯人説が一番有力ではあるものの、どこかでそれを否定しているマリナからしてみればクインの見たかも知れない影が真犯人という可能性もしっかりと追いかけておきたい話だった。


 みんなで集まろうと約束された時間が来ると、乗客はそれぞれラウンジ車の好きな席に座り、昨日の事件のまとめについてクインとセイが中心で話を進めていた。


 全員概ね話はわかっており、前に立って話すセイの話を飲み込みよく聞いている。最も荒れていたのは熟年夫婦の夫の方であるアラツだろう。


「そんな話があってたまるかよ! なんか方法はあるだろう! スタッフならなんとかしろ! 私達は客だぞ!」


 大声で列車が停止せずツアーを続行することについて怒鳴り散らし、全員から嫌な顔を向けられようともアラツは(はばか)ることなくクインを責め立てた。セイが庇うように前に立って言い返した。


「でも仕方ありませんよ、昨日の夜に俺たちもできることは試したんです。そこにある電話は壊されてるし、展望車のスタッフ室入り口は開けられそうにないし。気になるなら自分で行って見てくださいよ、マジで開かないっすよあそこ」


 鼻をフンと鳴らしたアラツは一人席を立つと、ドスドス足音を鳴らして出ていき、それから数分後に帰ってきた。扉を何度も叩いたのだろう、右手の外側を左手で撫でている。


「……安全なんだろうな、この列車は」


 アラツの言葉はクインには強気で、彼女の盾になるように立ちふさがったセイがその返事をした。


「ここにいるマリナはケーサツ、じゃなくて、憲衛の仕事を引き受けるほど信頼された探偵で、彼女の捜査で昨日のうちにカンラさん殺人の容疑者であるブロウドさんは隔離してるので」


 安全だと断言はしないセイの言い回しにマリナは少し感心する。


「ったく、おいなぁ、こんな目に遭わされたんじゃ賠償金みたいなのも払われるんだろうな?」


 アラツはセイにはさほど強く出ず、クインに対してのみ当たりが強めに荒げた語調でそんな事を言っている。


「あ……、どうでしょう、過去にない事態ではあるので上に確認しないと」


「使えねぇ」


 そう吐き捨てるアラツの気持ちがわからないわけではないが、困り果ててすっかり声のトーンを落としてしまったクインが不憫(ふびん)だと思ったのはセイだけではないだろう。


 彼の妻であるスンも目を伏して旦那を止める気配が無い。その後にアラツのほうが小声で「お前がこんなツアーを当てなければ」だのとさんざんスンを責め立て、スンの方は努めて聞こえないふりをしている様子をマリナは見逃さなかった。


 それからクインからこれからの過ごし方について提案がなされる間、マリナは集まった全員を見回しながら犯人像を考え始める……。

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― 新着の感想 ―
[一言] うーん。犯人の見当もつきません。 見事な構成です。
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