96 戦果と代償
名前はともかく、ゴローンの威力は凄かった。
20日もしないうちに、魔樹の侵攻速度が目に見えて減速している。
昼夜違わず魔樹を倒しまくり、2体で1日300本ほど処理しているのだ。
残された身体、と言うか材木部分を処理する方が遥かに大変だ。
「大きな損傷もない」
要塞山に戻ってきたゴローン2号の様子を確認して、ノマが頷く。
「前回戻ってきた時に、地魔法を使えるようにしたのが良かった見たいねー」
シャルもゴローンの全体を確認しながら、同意した。
最初に戻ってきた時には、表面がそれなりにへこんでいたり、傷がついていた。
そこで〈整地〉と〈隆起)の魔法を使えるように魔法陣を追加した。
〈整地〉はゴローンの転がる先を平らにする事に使えるし、自分自身の傷ついた部分の修復にも使える。
鉄は鉱物なので、地魔法の対象になる。
もちろん、敵の地魔法も通りやすいので、そちらの対策もしてあるようだ。
「手間はかかってるが、その見返りは十分だな」
なにせこの20日で、魔樹の最前線はほとんど動いていないのだ。
俺たちの魔樹の森内部への嫌がらせ攻撃は、回数をほぼ半分に減らしているので、この戦果は、ゴローン2体の戦果と言っていい。
「魔樹の森内部で魔物の数が増えているのが、気になるのよねー」
ゴローンの点検が終わり、立ち上がったシャルが言う。
彼女の言う通り前回、嫌がらせ攻撃の為に魔樹の森に入った時は、休む間も無く魔物に遭遇した。
強力な魔物が増えたわけじゃないので、危険は感じなかったが、とにかく疲れた。
「ゴローンが、魔樹以外を倒す数も増えてる」
ノマがゴローンから回収した命石を示した。
確かにオークなどの命石〈ライフコア)が見える。
ゴローンには、魔樹以外の魔物を積極的に倒すことは命令していない。
つまり、ゴローンが魔物に襲われているのだ。
「魔王軍が、ゴローンに対応してきたのかな?」
「対応と言っても、オークたちに襲わせる程度じゃなぁ」
それほど組織的な感じじゃないし。
「そもそも魔王軍に組織がある?」
ノマが根本的な疑問を口にした。
「まあ、軍と言ってるのも、私たちが勝手に言ってるだけだし?」
「どれだけ頭のいい魔物がいるか、疑問だしな」
俺も考え考え言う。
「だけど、ゴローンの活動に合わせて、魔物が増えているところを見ると、なんらかの意図はあるんじゃないかな」
「偶然、増えた可能性もある」
「確かに。どっちにしろ、今の人数じゃ俺たちはこれ以上の対応はできない。このまま、様子を見るしかないのさ」
「むー」
シャルは唸り、ノマは唇を尖らせた。
受け身が気にいらないのはわかるけど、今は足元を固めて、戦力の充実を図る時期だ。
我慢して欲しい。
「我慢する代償をデレクに身体で払ってもらう」
ノマがニヤリと笑った。