95 秘密兵器
「ゴロ〜〜〜ン!」
シャルが妙な抑揚をつけて言った。
どうも球体の名前らしい。
なぜ妙な抑揚をつけたのかは、不明だ。
シャルやノマが、妙な言動をするときは、たいがいココアが元凶なので、まあそういうことだろう。
(その言い方は不本意です。たまたま今回はその通りですが)
ほれ見ろ。
(でも失敗しました。マイダンジョンから取り出しながら、名前をいうのが正式な作法でした)
ココアがぶつぶつ言っているが、無視する。
こういう時にココアが言っていることは、ほぼ確実に意味がない。
(ひどい!文化とは、そういうものなのに!)
うん。無視無視。
「で、これは何?」
シャルとノマに尋ねた。
大きさが2米ほどもある巨大な球体だ。材質は鉄に見える。
「だからゴローンよ。ほんとはゴーレムを作りたかったんだけどねー」
ゴーレムというのは、ココアが教えてくれた魔物の一種だ。ただの魔物と違うのは、ゴーレムは他の何者かに作られる魔物だということ。
マイダンジョンの畑の手入れ用に一体召喚してある。
もちろん旧ダンジョンでは、今のところ確認されていない。
「人型のゴーレムは難易度が高い。だから、一番単純なゴーレムを作った」
それがこの球体ということか。
「ゴローンは三層に分かれている。中央に魔法陣を刻んである本体。その外側にスライムのようなドロドロした流体。そして全体を守る鉄の層」
ノマがいつになく饒舌だ。
「ノマ様。これはどのようにして動くのですか?それと攻撃手段は?」
ノエルが質問した。
「1号」
そう言ってノマは、近くにある魔樹を指差した。
ゴローンの1体が、びっくりするような勢いで転がり出し、魔樹に激突する。
魔樹は真っ二つにへし折れた。
ゴローンは折れた魔樹にのしかかって、潰していく。
ある程度潰してところで、一旦静止した。球体が鈍く輝く。
「ゴローンは魔樹のみを探して、倒す。そのあと命石を探し出して吸収する。だから、半永久的に動く」
おいおい。
「実際は、傷ついたりするから、修理しなくちゃダメだろうけどねー。あと使わない命石は、中に溜めてあとで回収できるよ」
「凄いじゃないか!」
俺は純粋に驚いた。
なに、その高性能。
だが、ノマもシャルも、手伝ったのだろうドワーフ二人も不満顔である。
「本当のゴーレムに比べたらまだまだ」
「ほんと。身体を動かす魔法陣だけだって、驚異的だしねー」
「ゴレム君をバラして調べてみたい」
「おい、やめんか」
物騒な事を言い出したノマをたしなめる。
ちなみにゴレム君というのは、召喚した農作業ゴーレムの名前だ。
命名はノマだが、2体目以降はどう名付けるのか、不安になる名前である。
「そうですよ。ゴレム君を召喚するのに、どれだけ力素を消費したと思ってるんですか」
お前もヒドイ事言うね。ココア。
孤独に農作業をやっているであろうゴレム君が不憫だ。
真木の若木の大量育成だって、彼のおかげなのに。
「まあ、だいぶ妥協した部分はあるけど、魔樹の森の外縁で魔樹を倒すのには、十分だと思う」
シャルが球体の側面をピシャピシャと叩いた。
「ん。現状では最高傑作」
「それではマスター。ご命令を」
ドランが俺を促した。
「こいつらの名前は?」
「ゴローン1号と2号」
ノマの命名だな。間違いない。
「よし。ゴローン1号とゴローン2号。森の外側から、魔樹を倒し排除するんだ。ただし、10日に一回要塞山に帰投すること。理解したか?」
ゴローン2体が、ブルリと震えた。
「よし!では行け!」
ゴローンは並んで転がり始めた。
「ところでノマ」
早速魔樹にぶつかるゴローンたちを眺めながら、尋ねた。
「ゴローンって名前の由来は?」
「ゴーレムがコロンと転がるから」
うん、そうだよね。
その程度の由来だとは思った。
読んでいただき、どうもありがとうございます。
冒頭ゴローンの名を呼ぶ時は、4次元ポケット所有者の口調でお願いします。
またBGMは、各自脳内処理でつけてください。
2019/07/15:一部分かりにくい記述を訂正しました。