94 使い道
防御石の威力なのかどうなのか、午前中の討伐は全く苦労するところがなく進んだ。
遭遇して魔物を倒し、ところどころで魔樹を切り倒し空き地を作る。
「真木を植えても、すぐ倒されるでしょうから、植えられないのが残念ですね」
魔樹を20本ほど切り倒し、マイダンジョンに放り込むんでできた空き地を見て、エレールが言った。
魔物は本能的に真木を嫌がるが、接近することができれば攻撃してくる。
この魔樹の森に、真木を少しぐらい植えても、あっという間に倒されてしまうだろう。
「防御石を置いて守れば、少しは持つかな」
俺はポツリと呟いた。
気がつくとみんなが俺を見ている。
「天才現る」
ノマが目を見開いている。だが、すぐに肩を落とした。
「でも、いくつ作らなきゃいけないか」
あー。まあねぇ。
石に魔法陣刻んで命石嵌め込んだだけとはいえ、この緻密さだ。
たくさん作るのは、辛いだろう。
「ココア」
「はい」
「これ、マイダンジョンで召喚するの大変?」
「模様が特殊なだけの石ですからね。見本さえあれば、楽なもんです。力素だって命石を別にすれば微々たるものかと」
「鬼才現る」
「惚れ直した?」
「無理。すでに限界一杯」
ブハッ。
軽口を叩いたら、素直な一撃を返された。
シモベたちがニヨニヨしている。
「ま、まぁ、なんと言うか、次回からは防御石を用意してこようか」
我ながら、挙動不審である。
シャル、その生温かい笑顔はやめろ。
さらに3時間ほど魔樹の森を荒らし回って、マイダンジョン経由で帰ることにした。
帰る直前には全員で、使える最上位の範囲攻撃魔法をぶっ放した。
まだしばらくは、自分たちが住めないと思っての鬼畜の所業である。
発案者は、俺だけど。
要塞山に戻って、山頂から眺めてみたら、点々と俺たちの破壊活動の跡が見て取れた。
なかなかの戦果ではあるが、その跡も魔樹の森のホンの手前の方だけだ。
「この程度じゃ、南下を少し遅らせる程度だな」
俺がいうと、シャルが頷いた。
「そうねー。もうちょっと別の手も必要かな」
「実は今、シャルと相談していることがある」
「へぇ」
シャルとノマは、自信有り気に微笑んでいる。
「んー。あと一週間くらい時間がほしいかな。乞う御期待?」
お手並み拝見と行こうじゃないか。
「これが、別の手?」
結局、あれから10日ほどたった。
2度魔樹の森に入って、真木を植える嫌がらせ攻撃をしてきたので、時間を取られてしまったせいもあるだろう。
思いのほか、真木を防御石で守る作戦がうまくいったのだ。
真木によって、どれだけ瘴気が薄れて魔樹の侵攻が遅れるかは、まだはっきりはしない。ただ、魔物を狩る上では大きな効果があった。
なにせ、真木を倒そうと魔物がどんどん吸い寄せられるのだ。
俺たちは、真木に注意を向けている魔物を後ろから襲うだけ。
効率は頗るいい。
植えた真木も、防御石の効果で今のところ倒されたものはない。
防御石の命石が消費されるまでにどれだけ植えられて、育つ事ができるかが勝負だろう。
そして、今日。
新兵器ができたということで、魔樹の森の外縁部に来ている。
目の前には、巨大な球体が2つある。
なんだこれ?