93 防御石
取り出したのは、一見結界石に似た石だ。表面の一部が磨かれ、そこに魔法陣が刻んである。
違うのは、魔法陣の中心に命石が嵌め込んであることだ。
これによって使用者の魔力を消費することなく、防御結界を張れるわけだ。
四極魔法のスキルレベルアップと、魔法陣の構成式を研究した賜物だ。
主にノマが。
「使い勝手はどう?」
「全く問題ないな。強いて言えば結界の防御範囲を把握しとかないと戦いにくいかもしれないけど、ま、慣れだな」
「そう」
素っ気ない返事だが、表情は嬉しそうだ。魔法陣をまとめるのに、苦労していたみたいだしな。
「ところでこれ、耐久力以上の攻撃を受けたらどうなるの?」
「命石が魔力を失って、結界が解ける」
「その時に、自分で魔力を流せば結界は張れる?」
シャルも質問をした。
「張れる。でも自分で張った方が効率がいい」
「そっかー。じゃあ命石を取り替えたら?」
「張れる。今、命石の交換がしやすい改良型を考案中」
「ああ、そりゃいいな」
感心して言うと、ノマはちょっと顔をしかめた。改良型の開発に苦戦しているようだ。
「必要な時に外れて、それ以外はちゃんと固定する工夫が難しい」
命石の大きさもいろいろあるし。
そう言ってノマは腕を組んだ。
なるほど。そう聞くと難しそうだ。
なにか手伝えることがあればいいんだが。
とりあえず、しばらくは使い捨て式の防御石で戦うとしよう。
「いやー。なんかわざと攻撃を受けてみたくなっちゃうね」
魔物の集団を3つほど倒した後に、シャルが言った。
普通に戦えば、まず攻撃を受けることはないのだが、防御石の効果を試したいのだろう。
ドワーフの二人が微かに頷いたのを俺は見逃さない。
職人気質だし、シャルに協力してるので、試したい気持ちが人一倍のようだ。
「無駄に攻撃を受けると命石の魔力を消費して、防御石の寿命が縮む」
「どうせ結界張ってるだけで魔力を消費するでしょ」
「いえ、シャル様。結界を張るだけなら周囲の瘴気を消費して張っているので、命石を消費しません」
ヴァニラが教えてくれる。
「おお!高性能!」
確かに結界石は、周囲の魔素を利用していたはずだ。それの応用か。
もう一度防御石を取り出して、まじまじと見つめた。
良く良く見ると掌に載る大きさの石に、実に緻密な魔法陣が刻んである。
これが使い捨てというのは、ちょっともったいないな。
じっと石を見つめていると、ノマが頬を染めてモジモジし出した。
「あまり見つめないで、スケベ」
いや、意味が全くわかりませんが。
読んでいただき、どうもありがとうございます。
ちょっと短めになってしまいました。かなり綱渡りの更新が続いていますが、
なんとか頑張っていきたいと思います。