91 裏砦 その2
6層側の階段周辺、みんなが裏砦と呼んでいる辺で俺は活動している。
俺は2層でデレクさまたちに救われた獣人のリーダー、パルモだ。
2層の貴族どもに復讐することを条件にデレクさまに従ったが、今や俺は復讐なんて、暇な時で構わねぇって心境だ。
魔物と戦う、殺伐とした毎日と言えるかもしんないが、正直楽しくて仕方ない。
日々、自分や仲間たちが成長して行くのがわかるんだ。
別に腕っぷしばかりじゃない。
コムは、鍛治仕事がこなせるようになり、ヤエノは魔道具作りを始めた。
他にも料理や大工を始めた者もいる。
2層にいた時には考えられねぇ生活だ。
充実しまくっている、といったところだ。
俺としちゃあ貴族に対する恨みなんて、どうでも良くなってきている。
ただ、仲間を殺された恨みだけは別だ。
2層にいたたくさんの獣人で、生き残っているのは多分俺たちだけだ。
その恨みだけは、いつか必ず晴らす。
だが、それよりも今はデレクさまに協力して5層と6層を豊かにしたい。
そう思っている。
そんな事を考え始めたキッカケの一端が目の前を走って行った。
シャドウボアの子供の背に乗ったゴブリンの女の子だ。
シャドウボアの名はメロン。ゴブリンの女の子はプティという。
彼女たちはデレクさまたちの手下だ。
彼女たちを追って、グレーコボルドの集団が走っていく。
野郎たちもデレクさまの手下だ。
そう。6層では、人類と魔物がいっしょに暮らしているのだ。
もちろん、魔物全部とではない。
だが、その事は俺のアタマに大打撃を与えた。
だいたい、まさかゴブリンの子供を見てかわいいと思う日がくるなんてな。
「魔物と仲間になるなんてね。人間に滅ぼされるところだった私たちが」
となりに立っていたラヌアが呟いた。
俺と同じ熊の獣人の娘だ。
俺と同じような事を考えていたらしい。
「デレクさまたちのお陰さ」
「ええ」
ラヌアと俺は頷き合う。
「プティやアルファに負けてられんねぇぞ!」
仲間たちに気合いを入れて、俺たちは歩き出した。
裏砦側は、5層の砦と違い、周囲に畑を作っちゃいない。本当にただの砦だ。
砦らしくないものといえば、真木があちこちに植えられている事くれぇだ。
裏砦にいるものは、デレクさまの手下のみで、開拓村の連中は5層側にいる。
そのおかげで、プティたちが堂々と行動しているわけだ。
そのうち開拓村の連中のレベルが上がれば、こちら側に来ると思うが、そん時きゃどう説明する気なんだろう。
一度聞いてみたが、
「普通に仲間になったでいいんじゃないかな」
と言っていた。
どこまで本気かはわかんねぇ。デレクさまの考えてる事は、俺なんかじゃ想像できねぇしな。
なにはともあれ、今の俺たちの役目は、アルファたちと一緒に砦周辺の魔物を狩る事だ。
1層から来た女たちも同様だ。
獣人、魔物、エルフ、ドワーフ、ノーム、人が協力して戦うってわけだ。
2層で狩られる立場だった身からすれば、嘘みてーな話だ。
燃えるね。
「そりゃ面白くてしょーがねぇよなぁ」
大剣を担ぎながら、呟く。
さて、一仕事するか。