90 砦 その2、そして裏砦 その1
開墾作業をしながら、3層での話や、開拓民のショーンから元々いた2層の話を聞いた。
「2層の孤児院なんか酷かったぜ。院長先生やガルテア様は、良くしてくれたけど、他はもう」
ショーンはオレより年下なのに、妙に大人っぽい雰囲気で肩をすくめた。
「他の大人もいろいろ大変だから、孤児なんかに優しくする余裕なんてなかったんだろうけどさ」
大の大人が孤児院の畑から作物盗むんだぜ。
そう言ってショーンが笑う。
いや、笑いごとじゃないと思うが。
「院長先生が身体壊しちゃってさ。孤児は、どんどん増えるしってんで、ガルテア様が貴族になったんで3層に領地を貰って、元気な俺たちがそこに行ったわけよ」
「そこで僕らと出会ったわけだ」
エスタの言葉に、ショーンは頷いた。
「ガルテア様は、貴族じゃなくなっちゃったみたいだけどね」
いや、だから笑いごとじゃないって。
「でもここに来られてよかったよ。できれば、院長先生や他のみんなも呼びたいなぁ」
そのショーンの笑顔を見て、エスタとオレは言葉に詰まる。
脇で聞いていたモーラとハースも、じっとショーンを見つめている。
「こうやって畑ひろげりゃ、いつか呼べると思うんだよな」
「あったり前だろ!呼べるさ!」
モーラが力一杯鍬を振り下ろし、吠えた。
「あたしが、ガンガン畑広げてやんよ!」
気持ちはわかるが、魔力を込めて鍬を振るうのはやめろ。
土が飛び散って、土を返す意味がなくなってる。
必死に3人でモーラを落ち着かせた。
「肥料だけでなくて、魔樹の灰なんかも使えば、すぐにみんな呼べるような畑になるよ」
落ち着いたところで、エスタが改めてショーンに言う。
魔樹は神殿で確かめたところ、実に役に立つ素材だったらしい。
鍛治に使えば、鉄の硬度が増し、灰になっても畑にまけば収穫量が上がるそうだ。
万能すぎて嘘くさい。
しかも、6層へ行けば腐るほどあり、単体なら狩るのも大して難しくないってんだから、ホントに話がうますぎる。
実際は、やはりそう上手い話ではなくて、真木の反対で瘴気を撒き散らす魔物だという。
だから、魔樹が単体でいることは珍しく、周囲には強力な魔物がいるらしい。
6層では優先的に魔樹を狩っているので、畑に使う灰には困らない状態だ。
どんどん魔物を倒し、ガンガン開墾して2層の孤児を早く呼べるように頑張ろう。
そして、オレも早く6層で戦えるようになりたい。
オレは決意を新たにした。
◇◇
わたし、ゴブリン。
シャルさまのケンゾク。
むれの仲間死んで、アルファさまにひろわれた。
シャルさまに剣おそわった。剣すごく強い。
オークたおせる。
「プティ。強くなったねー」
プティ、わたしの名。シャルさまがつけてくれた。
悪い魔物たおす。シャルさまがほめてくれる。うれしい。
「でも、無理は駄目。怪我をしないようにね」
無理、しない。
シャルさまとノマさま、フクとヨロイくれた。
「プティは女の子だから、服は着ておきなさい」
フク、きつい。でもシャルさまとノマさまがくれた。うれしい。
ケガもしにくい。だから、きてがんばる。
そして6そうで、アルファさまたちと魔物、狩る。
無理しない。がんばる。