88 開拓村、そして森の村
「兵たちの訓練はどうだ」
第3ダンジョン卿公子エウォルは、部下の隊長に尋ねた。
「先日、砦まで移民たちを送っていったのが、良い刺激になったようです。熱心にやっています」
森の村を超えて砦までの旅だったが、死者が出なかったのが、奇跡に思える過酷な旅だった。
だが、
「あれだけの魔物と、曲がりなりにも戦えたんですからな」
隊長が、誇らし気に言う。
5層に訓練で降りてきた時は5レベルにも届かず、4層の魔物にも苦労していた自分たちが、1月余りの訓練で、オーガやトロル相手にも、なんとか逃げ出せるレベルとなった。
強くなったんだか、なってないんだか微妙な表現だが、成長ぶりは顕著である。
しかも開拓民たちを護衛しながら、被害を出さなかったのだ。
隊長以下、更にやる気が漲っているのも無理はない。
「しかし、移民たちと一緒に届けられた、父上の書状だが」
一体どういうおつもりなのか。
エウォルは嘆息した。
書状の内容は、大きく分けて4つ。
エウォルは、引き続き5層に協力すること。
5層に訓練に派遣する隊を2隊に増やし、交代期間を延ばすこと。また、それを層長に正式に申し入れ、許可を取ること。
この2点に関しては、エウォルも異論はない。
兵たちは目覚しい進歩を見せていて、士気も高い。
人手が欲しい層長も二つ返事で了解をした。
3点目は、開拓民たちと協力して、開墾地を極力増やすこと。
エウォルは、改めて辺りを見回した。
開拓村の南側に拓かれた畑を。
開拓村とほぼ同じ面積を開拓しようとしている。
開拓村とは違って、堀や塁は築かず、周囲に真木の若木を植えている。
成木と違って、瘴気の吸収力が低いことや、まだ本数が少ないこともあって魔物を完全に防げるわけではないが、兵たちの巡回と合わせて、被害はほぼ出ていない。
新しい村の周囲の巡回と真木の若木に〈育成〉の魔法を1日1回かけることが、兵たちの重要な任務になっている。
こうした努力と肥料の効果で、畑は最近拓いたとは思えない、青々とした光景を見せている。
だが、この事を第3ダンジョン卿が、わざわざ書状で指示する意味とは、どういう事だろう。
エウォルが頭を悩ませているのは、その事だ。
そして、最後の指示がその悩みに拍車をかける。
曰く、第4層の魔物は、極力狩らない事。
「もしかすると父上は、王国を捨てようとしているのか?」
エウォルは、小さく呟いた。
◇◇
オドは、ここしばらくご機嫌であった。
自分の身体の一部と仲間の命を奪った地に、開拓者として乗り込む事が出来たのだ。
しかも、それを可能とした者が、彼を助ける為に命を落とした仲間の忘れ形見なのだ。
強面の顔も緩むというものだ。
余計に凶悪な表情になっているのは、ご愛嬌というものだが。
「しかし、地魔法がこんなに使えるとは、思わなかったな」
隣に立つ村長改め層長が、周囲の作業状況を見ながら言う。
大幅に人数の増えた森の村では、拡張作業の真っ最中だ。
(軟泥〉を使いながら、森の木を処理している。
デレクたちのように、何度もかけられるわけではなく、効果範囲も狭いので1日数本が限度だ。
しかし人の胴よりはるかに太い木を根っ子ごと処分できるのだから、他の方法に比べると、物凄い効率だ。
「そこ!真木に手をつけるんじゃないぞ!」
作業している尖兵たちに、オドが大声で注意する。
「地魔法なんざ、四元魔法で一番使わないと思ってたんだがな」
オドは反省交じりに苦笑する。
「もっと鍛えときゃよかったぜ」
「鍛えるといえば、デレクは四極魔法を使える奴を増やしてくれって言ってたな」
「おお、そういやそうだな」
地水風火の四元魔法に対し、四極魔法は陰陽時空を扱う。つまり闇、光、時間、空間を扱う魔法だ。
難易度は四極魔法の方が高い。
かつ、直接的な攻撃魔法が少ない為に人気がなかったスキルだ。
四極魔法ですぐに思いつくのは、共鳴石や結界石の作成くらい、というので不人気さも判ろうというものだ。
「デレクの奴、不人気魔法の意外な使い方が上手ぇよなぁ」
オドが、何かを思い出すような瞳で独り言のように呟いた。
「ああ。彼の両親もそんなところがあったな」
層長も似たような表情で言う。
二人は、村作りの喧騒の中、しばらく物思いにふけるのだった。




