85 巨人と踊れ
「城?」
山の様子を一望してノマが呟いた。
山の裾野は、ほぼ地肌が見えていて、高さ3米ほどの壁が築かれている。
さすがに山全体を囲むほどではないが、登りやすい場所は、全て塞がれている。
しかも見上げると壁は一重ではなく、山の各所に築かれていた。
「要塞ですね、こりゃ」
ココアが言った。
なるほど。要塞か。上手いことを言う。
「これ魔王の軍が6層まできたって言うこと?」
シャルが当然の疑問を発した。
「だろうね。かなり頭がいい魔物がいないと、こんな事出来ないだろう」
「その割に、今は悲惨」
ノマの言う通り、今、頭がいい魔物がここにいるかは、ちょっと疑問だった。
せっかく壁を築き立派な門まで作っておきながら、門は開けっ放し。ところどころ壁が壊れていて、修復もされていない。
なにより、魔物たちが壁も何も関係なく、辺りを闊歩している。
これじゃあ防壁を作ったのではなく、侵入者のための隠れ場所を作ったようなものだ。
「作ったけど維持が出来なかったのかなー」
シャルの指差す先、山の中腹辺りに魔樹の森が見える。俺たちには、瘴気が物凄く濃く感じるが、高位の魔物にはまだ薄すぎるのかもしれない。
「人類がかつて6層まで来ていて、その時作ったとか」
ノマの言葉に意表を突かれる。その発想はなかった。
だが、すぐに俺は首を振った。
「記録に無いような昔に作ったにしては、新しすぎる」
少なくともここ百年、王国が6層に降りたという記録はないはずだ。そして、この壁の様子は百年も昔のものではない。
「やっぱり魔王軍か」
嫌そうにノマが言う。
頭のいい強力な魔物と遭遇する可能性が高まっているのだから、嬉しくないのは当然だな。
「魔王軍と当たるまで、せいぜいレベルを上げるとするさ」
とはいえ、正面衝突を望むわけではない。
なにせ瘴気の濃度が下がれば、強力な魔物はやってこれないのだ。
だとすれば。
「主力戦略兵器 真木の登場ってか」
魔物を狩って、木を植える。
血生臭いのかほのぼのしているのか、よーわからんな。
まずは、裾野にたむろする魔物から片付ける。
やや大型のオークから、トロルやオーガがうじゃうじゃ。一番面倒そうなのが。
「巨人ねー。困ったもんだ」
そう。身長4米を超える巨人族がいた。
手にはオークの身長ほどもある棍棒を持っている。
トロルと比べても胸一つ大きい。
「再生能力がトロル並みだったら、ちょっと嫌かな」
俺の言葉にシャルとノマが首を傾げた。
「そう?傷口焼くか凍らせちゃえば、楽じゃない?」
さよけ。
「あの体格で、動きが早かったりしたらイヤだけど」
そう言ってシャル肩をすくめる。
「まあ、あの様子じゃ大丈夫そうね」
のそりのそりと歩く様子を見れば、あまり敏捷性が高いようには見えない。
「試しに一当たりしてみるか。このまま、隠れといてくれ」
そう言い残し、みんなと距離を取り不意打ち3点セットを切る。
手にした小石を一番近くにいる巨人に向かって投げた。
それで仕留める気は無いので、かる〜くね。
小石が頭に当たって、俺に気付いた。
なんだこいつ、とでも言うような疑問に満ちた表情で、こちらにやってくる。
俺を脅威とも思ってないらしい。
大きさ半分以下だしな。
俺が短槍を構えたところで、やっと敵と認識したようだ。もしかしたら、エサかもしれないが。
彼我の距離は約10米。
それを一気に跳躍してくる。
「うおっと!」
右に避ける。
着地と同時に棍棒を振ってくるのを避けた。
棍棒を持つ手の反対側に避けたのだが、腕も棍棒も長いので、思ったよりも伸びてくる。
「跳躍力もあるし、図体がデカいだけで脅威になるな」
振り終わりの腕を短槍で突いた。
巨人の力を測るため、魔力は纏わせていない。
短槍は巨人の右の二の腕を抉ったが、だいぶ浅い。
「皮膚はそれなりに硬いな」
傷つけられて、怒った巨人が怒涛の攻撃を仕掛けてくる。
「威力は高いが、どうしても大振りになる。急所を守る知恵はあるが、死角が多いってとこか」
棍棒をかわしながら、攻撃を入れる事、数回。
最後は短槍が、巨人の心臓を貫いて終わった。
心臓を攻撃するのに、自分の頭の遥か上を攻撃するのって妙な気分だ。
「慣れないうちは、攻撃する部分に戸惑うかもな」
相手の懐に入ると、どこが腹でどこが胸なのか一瞬戸惑うし、相手の攻撃の軌跡も分からなくなる。
「遠距離で撃破すること推奨かな」
「そりゃ全ての魔物がそうでしょ」
シャルが呆れたように言った。