84 グレーコボルドとチビゴブリン 実践編
コボルドたちは、平原に伏せている。
人の膝ほどある草に隠れている状態だ。
ちなみに我々は身を低くしているものの、伏せてはいない。
潜伏、隠蔽、隠密の不意打ち3点セットと我々が呼んでいるスキルを全力で活用中だ。
200米ほど先で、囮役のコボルドが走り出すのが見えた。
なにか魔物を引っ掛けたらしい。
必死にジグザグに走っている。
「ビッグボアですね」
エレールが、その視力を生かしていち早く魔物を判別した。
エルフの視力でなくとも、巨大な物体が走り回っているのはよく見える。
体積なら囮のコボルドの10倍はありそうな巨体だ。
その突進を右に左に必死に逃げながら、囮はこちらに逃げて来る。
「どうします?」
ノームのナニーが魔法発動の準備をして、俺を見る。
エレールも弓に矢をつがえている。
だが俺は首を横に振った。
「あいつらが自分たちで立てた作戦だ。ギリギリまで様子を見よう」
追って来るビッグボアは一頭。見るところ、必死ではあるが見事なステップでビッグボアをかわし続けていて、危機を感じるほどではない。
仲間達の潜む場所へとやってきた囮は、これが最後とばかりに全速でかける。
今までと違ってステップは踏まず、一直線だ。
それを狙って、ビッグボアも猛突進をする。
その進路脇に潜んでいたコボルドが、身を起こし、低い姿勢のまま鉄の棒を横に振りぬいた。
狙いは足。
攻撃したコボルドが吹っ飛ばされるが、ビッグボアもただでは済まない。
巨体の割に細い足を攻撃され、姿勢を崩し転がっていく。
そこに、残りのコボルドが群がる。
こうなるともう数の暴力がモノを言う。
ビッグボアが魔法を使えたり、強力な再生能力でも持っていれば話は別だろうが、少しぐらいの身体的能力など、繰り出される20本もの鉄の棒の嵐の前には無力だ。
コボルドたちの隙間から、必死にチビゴブリンがナイフを振るっているのが、その凄惨さと不釣り合いに可愛らしく見える。
ビッグボアの雄叫びは、すぐに悲鳴に変わり、やがて止んだ。
アルファが功労者の囮役と、足を攻撃したコボルドの様子を見ている。
特に攻撃したコボルドは巨大な重量物を棒で殴っているので、手などを痛めている可能性がある。
幸い怪我はなかったようだ。
アルファが2頭の肩をよくやったとばかりに叩いた。
「階段周辺は、十分任せられそうね」
シャルの言葉に頷く。
アルファに、階段周囲の魔物を無理せず狩る事。食べない魔物も、集めて置いておく事を指示した。
俺たちは、本格的に6層の探索だ。
階段周辺は、見通しのいい草原となっているが、その向こうにはちょっとした山が見える。
5層では見なかった光景だ。
「あまり高くはなさそうね」
稜線を見やりながらシャルが言う。
「まあ、それでも見晴らしは良いだろう。まずはあの山を目指そう」
そう言って歩き出す。
最初は順調だった。
出てくる魔物は5層より強いとはいえ、俺たちの敵ではない。
俺たちと眷族たちだけなので、魔法もスキルも使わず、力技でさほど苦労もせずに倒していく。
倒した魔物は、これまで同様マイダンジョンへ放り込むので特に面倒もない。
全部力素として吸収するのではなく、命石や素材用にとっておかなければならないので、ココアが切なそうにしているも、いつも通りだ。
様相が変わってきたのは、山の麓に近づいてきた辺りからだった。