83 グレーコボルドとチビゴブリン
砦の人員の平均年齢は、とんでもなく若いことになりそうだった。
いや、待てよ。
1層組のエルフ、ドワーフ、ノームの長命種族は、いい年齢だったりするのかな?
「あら、デレクさま。女性の年齢を詮索するものでは、ありませんわ」
1層組の女性の約半数から、冷たい笑顔を向けられました。
シャルとノマの方に助けを求めたが、2人とも同じように凍える瞳で、こちらを見ていらっしゃる。
「すみませんでした」
無条件降伏をする以外に、どんな選択肢があるというのか。
その若い集団(懲りてない)の中で、特に幼い子たちは、獣人の子と旧子爵領の子たちで、10人ほどいる。
さすがに最前線に置くのもどうかと思い、開拓村に戻る公子たちに託す事も考えたが、本人たちの反対もあって、断念する。
そりゃ知らない人だらけのところに、幼い子だけを放り込むだなんてあんまりな仕打ち、と言われれば、一言もない。
砦内の仕事を頑張ってもらう。
80人を超える事になった砦の人員で、幼い子たち以外が戦えるようになれば、まあまあな戦力と言える。
5層を100人ちょっとの尖兵で受け持っている事を考えると、まだ心許ない。
有利な点は、質は圧倒的に上な事だが、その分魔物も強くなってるんだよなぁ。
まずは、地道に6層側の階段近くの魔物を減らすことからだ。
まだまだ家の建築をあちこちでやっている砦を尻目に、俺たちは6層へ潜る。
メンバーは、俺たち3人にシモベ女性陣だ。
男性陣は、砦でみんなの指導監督を行なってもらう。
6人で潜ることでの危険性は、あまり考えていない。
俺たち自身のレベル上げは順調だし、なにより彼らがいる。
6層に降りた俺たちを出迎える彼ら。
アルファと、その眷族だ。
「なんか見るたびに、数が増えているんだけど」
シャルの言う通り、アルファの眷族は20頭を超えている。
「コボルド以外までいる」
そう。なんとグレーコボルドだけでなくゴブリンまで1頭いる。まだ、幼体のようでサイズがコボルドの半分しかない。
「な、なんかかわいい?」
ノマが不思議そうに覗き込む。
たしかに、剛毛に覆われシワだらけで醜悪な顔つきが相場のゴブリンにしては、毛が柔らかく目も円らで可愛らしくみえる。
なにより汚くない。
これはコボルドたちも同様で、1日1回は水浴びをするようにアルファに言い聞かせている。
お陰でコボルドたちも毛並みがフサフサモフモフである。
グレーコボルドの特徴、額から鼻先へと生えるグレーの毛並みも、美しく輝いている。
外見だけでなく、臭いも抑えられていた。これは狩りの上でも非常に重要な要素だ。泥や草の匂いならともかく、血や腐臭を漂わせては、遥か遠くから警戒されてしまう。
6層では弱者であるグレーコボルドたちが、戦う為には、奇襲が絶対要素なのだ。
今日は、もう一つグレーコボルドたちの戦力アップになるものを持ってきた。
鉄の棒である!
うん。まあ、普通と言えば普通の戦力強化策である。
6層では、魔物たちの武装率が上がっている。階段周辺では、棍棒の類が主だが、素手や牙に比べれば、危険度は大幅アップだ。
普通のグレーコボルドには、刃筋を合わせるというのが厳しそうなので、鉄の棒を用意した。
アルファには小剣と盾を渡す。
困ったのはチビゴブリンだ。
用意した鉄の棒では、ちょっと大きすぎる。
「教えれば、なんとかなるんじゃないかな?」
とシャルが大振りのナイフを渡した。
チビゴブリンが持つと、立派な剣に見える。
なんか、子供が背伸びして剣士のカッコをしているようで、かわいいんだが。
それから30分ほどアルファとチビゴブリンに、刃物の扱い方を教える。
鞘に剣を納めるという事を理解させるのに、少し時間がかかったが、2頭ともそれなりに扱えるようになった。
アルファはともかく、チビゴブリンもなかなか頭がいい。
「それじゃ、実践編行ってみるか」