82 新体制
5層の新しい体制が動き出した。
今までの開拓村は、完全に後方基地となる。
食料生産、尖兵の養成、そして休養地としての機能を持つ。
3層の訓練部隊や移民の応募をしてきた者も、ここを拠点とする。
責任者はオロンとオド。
そして、西の森の拠点。
ここは森の村と名前を変え、尖兵の拠点となる。
尖兵全員に、拠点維持要員を入れて、150名ほどが詰める。
責任者は村長だが、最近は層長と呼ばれることが多い。
6層への階段発見の報にも、王宮がほとんど反応せず、当然ダンジョン卿への陞爵の沙汰もなかったので、自然発生的な称号だ。
一応、開拓局からは、引き続き村長が5層の責任者である通知は来たけどね。
で、6層への階段周りに作った新しい拠点。通称「砦」。
砦と言いつつ、狭いながらも畑を作ったりして、村の機能も持たせている。
人員は俺たち眷族シモベなど50人弱に、新たにやってきた尖兵。
「よろしくお願いします!」
俺たちの前にならんだ4人の少年少女。
ガライやエスタを始めとする尖兵見習い組だ。
「オドも思い切ったねー」
緊張気味の4人を見て、シャルが言う。呆れているようにも聞こえるが、実際は賞賛の気持ちだろう。
無茶に思えるが、若い優秀な尖兵見習いを最前線に送り込めば、将来のエースを育てることになる。
もちろん、この子たちを死なせないのが、大前提なわけだが。
「私たちの責任が重大」
ノマの言う通りである。
そして重大な責任は、それだけじゃない。
「説明してもらえますか?」
満身創痍で、砦まで送り届けてきた3層派遣兵とエウォルを見た。
彼らが連れてきたのは、3層で出会ったガルテア子爵領のみんなだ。
3層で最初に見た頃よりは健康そうだが、長旅で疲れている。
「お久しぶりです」
リーダーのアモスが頭を下げる。
「村はどうしたんだ」
少し前に残してきたシモベの目で確認した時は、普通に暮らしていた筈だ。もちろん共鳴石も使われなかった。
「それが」
アモスはちょっと言いにくそうに口ごもる。
「私から説明しよう」
エウォルがアモスの肩に手を置いて言う。
「端的に言うと、ガルテア子爵が失脚した」
「はい?」
「今1層、というか王宮は大混乱らしくてね。少し前までは、陛下がお気に入りの人間を叙爵して、新貴族という派閥が生まれたんだが、その新貴族と旧来の貴族との間で勢力争いが酷いらしい」
「うへぇ」
ダンジョン平定を放っておいて、お気楽な事で。
「陛下のお気に入りという事で、新貴族が幅をきかせていたんだが、つい最近王宮の警備上で大きな失敗があったらしくてな」
おや?
「警備の責任者が新貴族の中心人物だったらしく、旧来の貴族も盛り返してきたらしい」
おやや?
「ガルテア子爵は、新貴族と旧来の貴族の間を取り持とうとしていたらしいが、その行動が新貴族の中で問題となったらしく、失脚してしまったというわけだ」
俺たちは顔を見合わせる。
(これは、もしかして?)
(警備上の失敗というのは?)
(アレしかない)
アレというのは、花園の女性陣を丸ごと(というか、警備兵ごと)脱走させた、アレだ。
(やっぱり騒ぎになったかぁ)
(そりゃなるでしょうよ)
王族経営の娼館を、王宮のど真ん中から消し去ったようなものだ。
そりゃ警備の責任は問われるだろう。
(ガルテア子爵には悪いことしたかな)
話を聞く限り、悪い人ではなさそうだし、今回の失脚も完全にとばっちりにみえる。
「そんな事で失脚だなんて、貴族は大変ですねー」
「まあ当家としては、優秀な執政官が手に入ったんで、丸儲けだがね」
「というと、ガルテア子爵は?」
「元子爵は騎士待遇で、父が雇ったよ」
おお。なにはともあれ、俺たちの行動の被害が少し減ったのなら、なによりだ。
「でもそれなら、彼らがここに来る必要はないのでは?」
ノマが尋ねる。
「あそこの村は、他との連絡が悪過ぎる。単独の貴族領ならともかく、そういう制約がなくなったんだから、他の村に移住しないかと誘ったんだ」
「でしたら、お世話になったデレクさんたちのお役に立てれば、と5層を希望しました」
アモスが恐る恐る言う。
「ご迷惑だったでしょうか」
「とんでもない」
有り難いけどさ。
思い切ったね。君たち。