81 レベリング
突然オドが大声を出す。
「今現在、最前線で戦っている王国の人間はデレクたち3人しかいない。それが、どうも気にいらん」
ごめんなさい。正確には、俺たちは王国の人間と言っていいか微妙な存在になってしまいました。
あと仲間に元王国の人間は、結構います。
心の中でオドに謝っておく。
「なわばり意識?」
少し非難のニュアンスを込めながら、ノマが言う。
「そんなつもりはないが、大多数を占める俺たちが、生存の為の戦いを少数派の人間におんぶにだっこ、ってのは気にいらん」
オドの言う内容も、正確にはなわばり意識の一種なのだろうが、不快ではない。
「なんとか、うちからもう少し、人を送り込めねぇかな」
「戦いながらレベル上げさせるのは、できるけど」
そう言って村長の方を見る。
問題なのは、人員の割り振りだ。
6層への攻略だけ考えて、5層で魔物が増えたら意味がない。
尖兵だって人数に余裕があるわけじゃない。
村長は腕組みしながら考え込む。
要は5層の人間の数が少なすぎるのだ。考えても、結論は出ないだろう。
「3層で人を募ってみようか?」
今まで黙っていた、エウォルが口を開く。
「3層で?」
「ああ。3層では、まだ土地があると言うものの、簡単に開拓できる土地はほぼ入植済みだ」
エウォルの言葉に全員が頷く。
「最近の入植地は、10年単位で考えなければ、自活が難しい土地ばかりだ。しかし、その割にどんどん人が送り込まれている」
3層のガルテア子爵領のことを思い出す。
おそらくシャルとノマも同様なのだろう。苦い表情で頷いている。
「魔物の脅威を除けば、5層の方がはるかに条件がいい。募れば、ある程度人は集まると思うな」
「しかし、その魔物の脅威が最大の問題では」
オロンが異議を唱える。
「しばらくは、我が領の兵がついて入植者を守る。どうせ訓練をしに来ているんだしな。その間に実力をつけてもらえばいい」
「その分、最前線に人を送る余裕ができる、か」
村長が腕組みをといた。
「お願いできるでしょうか、公子」
「承知しました」
村長と公子が握手をした。
それから2週間ほどかけて、西の森の拠点でみんなのレベルアップを図る。
尖兵はもちろん、若手を中心とした備兵も対象だ。
森の中で魔物を狩りまくるという、鬼のようなメニューだが、みんなみるみるレベルを上げていく。
壁、穴、泥を駆使して分断しては、囲んで袋叩きにする、簡単なお仕事だ。
ベテランの尖兵に微妙な表情をする人が多いのが、印象的だった。
ベテランは、正面からぶつかってねじ伏せる、みたいな戦い方が好きな人多いしな。
「わたしだって好きよ」
心外だと言わんばかりに、シャルが腰に手を当てる。
「実力で圧倒しているときはね」
ま、そうでしょうな。
ちなみに俺は、気付かれないうちに一撃で倒すのが好きだ。
ノマの場合は、勝てればどうでもいい。
全員、らしいと言えばらしい。
なにはともあれ、俺たち抜きの尖兵でも、なんとか西の森で活動可能な程度には、レベルアップを果たしたのである。