80 村の将来
「そうか。階段を発見したか!」
村長が嬉しげに頷く。
だが、すぐにちょっと複雑な表情になった。
喜んではいるが、少し困ったような表情だ。
「素直に喜んでいいんじゃねーか?」
そんな村長を見て言ったのは、オドだ。
「素直にって、なにか喜べないことでも?」
あまり村長の懸念がわかっていない様子なのは、オロン。
開拓村の三役揃い踏みだ。
俺たちは、いつもの3人。さらにたまたま来ていた、キャラバンのリーダーも同席している。
さらに、第三ダンジョン卿の公子エウォルまでいた。
まだ帰ってなかったのか。
「本当なら、ダンジョン平定戦で見つけたかったな」
村長が、なんとも言えない表情で言う。
「どうしてです?手間をかけずに階段を見つけたんだ。村の重要度が高まりこそすれ、損はないと思うが」
オロンが首をひねる。
「重要度が増すと言うか、このまま開拓村に任せておけばいい、と思われかねない」
「あ」
「今の陛下は、完全に内向き志向だ。5層の価値は、命石の供給源としか思っていない」
キャラバンのリーダーが、村長の言葉を補強する。
「開拓民も出しませんかね?」
シャルが尋ねる。
「募集くらいはしてくれるだろうが、第3層はまだ土地が余ってる。命令もなしに好き好んで5層にくる奴は、いないかもな」
リーダーの言葉にエウォルが考え込んでいる。
「ということで現状の人員で、引き続き5層の開拓と、新たに6層の探索を行うわけだ」
「無理だな」
オドが肩をすくめる。
「今の尖兵で西の森を自由に行き来できるのは、事実上デレクたちだけだ。5層の開拓だけだって難しいぞ」
「うーん。俺たちと一緒に西の森で2日も戦えば、レベルも2つ3つ上がると思うけど」
「どうやって?!」
オドが目を剥いた。
「陣地を築けば、結構簡単に?飛び道具使う魔物はほとんどいないから」
「対魔物で、そんなに簡単に陣地築ける奴はいねーよ」
「だから最初は、俺たちと一緒にやれば。レベル上がって、地魔法のスキルが伸びれば、あとはどうにでも」
「地魔法か」
オドが唸る。
俺たちの中では、地魔法最強説が囁かれているが、尖兵では四元魔法の中で最も人気がない魔法ではある。
直接的な攻撃魔法が少ないからね。
使い方も見せるので、有効性はすぐにわかってもらえるだろう。
「ふむ」
村長が考え込む。
「尖兵のレベル上げが上手くいったら、村を二つに分けるか」
そんなことを言い出した。
「二つに分ける?」
「ああ、ここは食料生産拠点として、尖兵たちの基地としての機能を、西の森の方に移動させよう」
なるほど。最終的には、6層への階段の周囲に移動するわけだが、実力に合わせて、もう一段階置くわけか。
階段間の街道に宿場町が必要だから、将来的にも無駄にならない。
「だとすれば、イシュルさんたちの村を譲り受ければいいんじゃないかな。彼らは、全員階段へ移動するそうだし」
「ほう?」
村長が関心を示す。
「そりゃ有り難いが、大丈夫なのか?」
「たぶん?捨てるって言ってたし」
ウソです。命令すれば、確実です。
「イシュル殿の仲間って、どれくらいいるんだ?」
オドが尋ねる。
「全員と会ったわけじゃないからなぁ。たぶん、100人くらい?」
あとあとの事を考えて、フワッとした回答にしておく。
「100人か。お前らも、階段へ移動するんだよな」
「尖兵のレベル上げが終わって、村長が許可してくれたら、そのつもりだけど」
俺たちは、村長を見る。
「ダンジョン攻略の最前線を他勢力のみに頼るなど、ありえない。当然行ってもらうつもりだ」
「それだよ!」
どれだよ。