78 魔王の影
最初から1時間ほど戦闘を行ったら、役割を交代する事としていた。
その手はず通りに交代していって、とりあえず1周が終わったところで、俺たち3人は、順番から抜けることにする。
全員の成長が著しく、手出しする必要がないのだ。
特に1層組の元衛兵たちは、元から訓練を行っていただけに、目を見張るような戦い振りだ。
それ以外は、さすがにレベルアップによって上がったステータス任せの、力技とも言える戦い方が目立つ。
ただ、連携を取りつつ多数で少数に当たるように心がけているので、危なげはない。
俺たちは、砦の上から戦況を見守るだけで充分だ。
いざとなれば、シモベたちもいるしね。
俺たちが気にしているのは、全体の戦況と、階段だ。
「もう顔を出さないかなー」
「魔樹もあらかた焼いたんで、無理だろ」
そう言いつつも、警戒は怠らない。
「本来は、こんな階層に現れる奴じゃないと思うんだよね」
「やはり、この階層に魔樹を植えたのは、アレだと思う?」
アレ。
6層への階段から、身体の一部だけ覗かせ、異様な圧力を巻き散らしていた魔物だ。
すぐに6層へと消え、正体は全く分からなかった。
「分からない」
素っ気なくノマが言う。
「でも、どちらに賭けると言われれば、植えたと言う方に賭けるな」
今まで焼いた魔樹は、明らかに階段から広がっていったような分布だった。
だが魔樹自身が階段を超えてきたと思うには、移動速度が遅すぎる。
6層側の階段が魔樹の群生地でもない限り、10本以上の魔樹が連続で5層に渡るとは考えにくい。
「だとすれば目的は」
「より強力な魔物が5層に上がれるようにでしょうねー」
俺の台詞の後半をシャルが引き取った。
「知能の高い魔物って、6層辺りから出るの?」
自分たちの戦い安い環境を整えようとするのは、それなりの知能があるということだ。
「10層より深い辺りになれば、それなりの知能の魔物が出るはずです」
「10層ねぇ」
ココアの台詞にため息が漏れる。
「その辺りの魔物が、ここまで進出している可能性があるってことか」
「いくら頭がいい魔物でも、単独でここまで来るかどうか。でも、これだけの規模のダンジョンで、ダンジョンコアが産まれるほど、瘴気が溜まっていれば、魔王が4、5人いてもおかしくはないか」
ココアが自分に言い聞かせる様に言う。
「魔王?」
「文字通り魔物の王ですね。穏やかな魔王もいるようですが、魔王たる者一度は人類征服に手を染めるのが、粋と考える者も多いようです」
「粋ねぇ」
「もしくはロマン?」
「そんな理由で、生存圏に侵攻してほしくはないな」
「最終的には、人類と魔物なんて生存圏の奪い合いなんですが」
粋やロマンで侵攻されるよりは、そっちの方が余程納得できる。
「最悪、6層で魔王の一軍とぶつかるわけか」
さすがに戦力が全然足りないよなぁ。