76 団欒
「あー、疲れた」
そう言ってシャルが大きく伸びをする。
そんなシャルをノマが睨んでいる。顔ではなく、もう少し下を。
睨んでも、自分のモノが大きくなるわけじゃないと思うが。と考えたところで、殺気がこちらに向かってきて、慌てて意識を他に向ける。
例えば、今の状況とか。
ノマの殺気に気がつかない振りで、わざとらしく辺りを見回した。
日も落ちたので、今日の戦闘は終了となっている。
壁の向こうで魔物たちの雄叫びが聞こえるが、知ったこっちゃない。
終わりと言ったら終わりなのだ。
砦をさらに囲むように、5メートル以上の壁を立ててある。砦を中心に半径15米の安全地帯を作った事になる。
さらに3本ほど真木の苗木を植えた。
本来、グレーコボルドたちには深刻な影響を与える真木だが、アルファは俺の眷族化しているので、問題ない。アルファの部下のグレーコボルドたちは、なんとアルファの眷族という称号を獲得していた。
いわば俺の孫眷族(?)となったグレーコボルドたちも、瘴気の枯渇に対して、強くなっているようだ。
しかも俺に直接仕えているわけじゃないのに、エグいくらいに俺たちに隷属している。
先ほどのノマの殺気には、地面に頭を擦り付けるほどの土下座をしていた。
コボルド族の縦社会っぷりが、垣間見える。
これ幸いと、この場の維持をアルファたちに任せる俺たちも俺たちだが。
マイダンジョンに引っ込んで、羽根を伸ばす。
ノマのご機嫌もようやく直ったようだ。
この女性陣への気の使い様。コボルドも真っ青な縦社会のような気もしなくもないが、深くは考えない事にする。
それが平和の為だ。
「風呂でも入るか」
遠距離戦ばかりで、返り血などは浴びていないが、風呂に入って戦塵を落とすことにした。
「フイィ〜」
露天風呂に浸かって、心の底からの声をあげた。
気持ちがいい。
開拓村と違い、マイダンジョンでは毎日風呂に入れるのが素晴らしい。
勢いにのって男女別の大浴場に俺たち専用と、計3つの露天風呂を作ってしまった。
今入っているのは専用風呂で、俺一人きりだ。
3人で入ることも多いが、今日はあまり疲れたくないので、シャルやノマと別に入る事で同意を得ている。
3人で風呂に入ると、何故疲れるかは御想像通りと言っておこう。
シャルもノマも、少し残念そうだったが、この頃少し貪欲すぎないかね?
獣人組も1層組も一休みしてもらったのち、全員を広場に集めて、食事会を開く。
今日仕留めた、血毛牛を丸焼きにした。
時間の都合上、魔法で一気に焼きあげたので、風情はないが、ちょっとしたバーベキュー気分を味わってもらう。
みんなの表情は、明るい。
特に1層組は、充実した笑顔だ。
閉じ込められた環境から、半ば強制的に戦わされるのは、どうかと思ったが気にはしていないようだ。
「強制的だなんて、思っていませんからね」
1層組エルフのまとめ役コーリィが、笑顔で言う。
たおやかで上品な雰囲気と、右手に持った骨付き肉のアンバランスさが、ちょっと笑える。
「それならいいけど」
「本心ですよ?自分で生きていく力を得る為です。感謝こそすれ、不満に思うことなど」
「そうそう」
口を挟んできたのは、ドワーフのパムだ。
「安全に、これだけレベルが上がるんだもん、文句を言ったらバチが当たるって」
周りで話を聞いていたらしい連中が一斉に頷いている。
「ステータスの伸びがヤバイって」
「わたしは、四元魔法が取れました」
「あたし、なぜか暗殺が取れたんだけど」
口々に言い合うみんなの表情は明るい。
「悪いな。じゃあ、もう少し力を貸してくれ」
「もちろんです」
「少しだなんて水臭い」
「そうそう。命令しろって」
そんなこと言ってると、眷族扱いになっちゃうぞ。
(それはフラグですか?)
違うわい。
つい先ほどまで、戦いを行っていたとは思えない、のんびりとした一時を過ごした。
読んでいただき、どうもありがとうございます。
誤字報告もいただいております。ありがとうございます。
結構、見直しているつもりなんですが、誤字が残ってるもんですね。
ちょっと、ショックでした。