74 動く城
100米も進むと、魔物の密度が濃くなってくる。
「数はさっきの比じゃないわねー」
「原因は、たぶんアレ」
ノマが右斜め前方を示した。
そこに真っ黒い木が立っている。枝に葉はなく枯れ木のように見えるが、薄っすらと陽炎のようなものが纏わりついている。
「魔素を吸収してる」
目に見える程に魔素を集めて吸収しているのだ。それを瘴気に変換して、地面に流し混んでいるのだろう。
「まずあいつから」
ノマが《炎槍》を魔樹に放つ。
同時に、俺が地面を隆起させ、即席砦を作り上げた。
燃え上がる魔樹と突如現れた砦に、周囲の魔物は棒立ちになっている。
その間に俺は、砦上に入口を開けて、留守番の獣人や元1層の女性陣を招き入れた。
これは先程の戦いの反省を元に、決めたことだ。
反省その1。あっさり勝ちすぎ。
反省その2。その割に魔力使いすぎ。
その反省から、人数を増やす事にしたのだ。
楽にレベルアップ可能だから、みんなで交代で攻撃に参加してもらう。
代わりにというわけじゃないが、イシュルには西の森の拠点に戻ってもらい、向こうで戦闘参加者の整理役をお願いした。
「んじゃ、戦闘開始!」
内容に似合わないのんびりとした口調で、俺が言うと、みんな一斉に攻撃を放ち始めた。
獣人たちは投石器で礫を放ち、それ以外は弓で攻撃している。
皆レベルが低いので、一撃で倒せるわけではないが、着実にダメージは与えている。
討ち漏らしは俺たちかシモベたちが片付けるが、ギリギリまで我慢。
1、2頭、わざと突破させた魔物もいる。アルファたちの獲物だ。格上のオーガだったが、手負い状態で集団に襲われたので、あっさり倒れている。
「ぼちぼち前進するか」
30分程戦って、周囲を見回す。
まだ見える範囲に魔物はいるが、だいぶ数が減ってきた。倒した魔物も、戦いの合間にアルファたちに回収させているので、これ以上この場所で戦う意味も少ない。
「じゃあ移動開始だ」
今いる砦の前方を隆起させ新たな砦を作る。そこに移動したのち、今までの砦を崩した。
そこで少し戦ったのち、同じように移動する。
名付けて「這い寄り動く城」作戦。
命名はココアだ。
なんか嬉しそうに名付けていたので、おそらくライブラリに元ネタがあるのだろう。
砦は、ゆっくりとではあるが、階段に向けて前進していく。
「矢や礫は、まだ大丈夫?」
交代でやってきた、元1層のドワーフ、パムに尋ねた。
「はい。まだ3分の1も消費していません」
うーん。みんなのレベルも上がって、一撃で倒せることも増えてきたけど、残り距離を考えると微妙かな?
「魔素は大幅な黒字です。矢や礫を大量に産み出しても問題ないですよ」
ココアは楽観的だ。
「まあそりゃそうなんだが、魔素を変換しなくても作れる物を魔素で作るって無駄な気がして」
我ながら、ちとケチくさい気はする。
そんな無駄話をしている間も、砦の前進は止めないし、攻撃の手は緩めない。
「4本目」
射程に入った魔樹をノマが燃え上がらせた。
「遠距離攻撃の手段を持ってない魔物相手だから、楽ですねー」
援護に徹しているシャルが暇そうだ。
たまに投石する魔物がいるが、弓や魔法を使ってくる魔物はいない。
おかげで、砦の高低差が強力な防御になっている。
弓を射るのも、魔法を使うのもそれなりの知能が必要だ。
もっと強力な魔物じゃないと、やってこない。
「ああ、シャル。そんなフラグ立てちゃダメですよ」
ココアが慌てて言う。
「フラグ?」
意味がわからず問い返した時だった。
前方から、大型の狼のような魔物が3頭駆け寄ってきた。尻尾が二又に見える。
「犬又!アレは炎を吐きます!」
ココアの警告が響いた。
読んでいただき、どうもありがとうございます。
「這い寄り動く城」
もちろん「ハ◯ルの動く◯」が元ネタでございます。
全然うまくはないけど、思いついてしまったら、やらざるを得ませんでした。