72 侵食
目の前に、西の森の切れ目が見える。
ほぼ村と反対側。西の森の西側ということになる。
この先10粁ほど行った場所に、6層への階段が見つかった。
ただ、同時に気になることもあったので、俺たち3人にシモベ6人の最強戦力で、確認に向かっているところだ。
森の拠点は手薄になるが、獣人たちがだいぶ育ってきたので、防御に徹すれば問題ないだろう。
拠点周辺の真木も増えて、強力な魔物はほぼ近寄らないしね。
「既にだいぶ、瘴気が増えている気がします」
もっとも瘴気に敏感な、ノームのナニーが言った。
「特に土が汚れているようです」
「普通、瘴気は大気から回る筈ですから、土の方が汚れてるのは、珍しいですね」
ココアが考察する。
「最近、瘴気が除去されて土にだけ残ったのか、あいつのせいでしょうね」
「あの木の魔物かー」
「だろうね」
シャルとノマが頷きあった。
鳥のシモベが見つけたのは、階段だけではなかった。
その周囲で動き回る大量の魔物。そして、その魔物が守っているように見える数十本の木。その木は少しずつ動いているように見え、しかも大量の瘴気を放っていた。
「真木と逆の役割なんでしょうか」
イシュルの疑問に頷く。
「そうとしか考えられないな。問題なのは」
俺は言葉を探した。
「その木が、その役割のためにあそこにいるのかどうか、だな」
「どういうことでしょう」
「デレク。まだるっこしい」
イシュルが尋ね返し、ノマがバッサリと切って捨てた。
「要はあの木の魔物が、自分でやってきたのか、誰かに植えられたのか、ってことでしょ」
ノマの言葉でも、今一つピンとこなかったのか、イシュルは考えこんでいる。
「みんなも知っている通り、魔物の生息には瘴気が不可欠だ。人類にとっての魔素と一緒だな」
俺が解説する中、シャルが弓を射た。
100米程先のオークの頭を射抜く。
近寄りながら言葉を続けた。
「人類と違うのは、俺たちは魔素が薄くても、とりあえず生きていけるのに対して、魔物は瘴気が薄いと消滅する。特に魔物が強力になればなるほど、必要な瘴気が増える」
「だから上層には、強い魔物がこない」
シャルの言葉に頷く。
ダンジョンマスターになって得た基本的な知識だ。
「弱い魔物が撒き散らす瘴気が溜まってからじゃないないと、強い魔物は現れない。だが」
階段があるはずの方向を見る。
「あの木の魔物が撒き散らす瘴気は、異常に多かった。あの調子で瘴気が撒かれれば、もっと強い魔物も、すぐに5層で活動できるだろう」
仲間たちを見回す。
全員が真剣な表情だ。
「どうやってあの木の魔物は、階段周囲に群生している?自ら6層から登ってきたのか?それとも、誰かが連れてきたのか?」
「もともと5層にいたのかな?」
シャルが言う。
自分でも、これっぽっちもそんな事を考えていない、議論を進めるための言葉だ。
「だったら5層は、もっと瘴気が満ちた魔物の天国だったろうな」
「じゃあ、自分たちで歩いてきた」
面白くなさそうにノマが言う。
「もっと早く動ける可能性もあるけど、今確認できる木の魔物の速度は、1日1米程度だ」
「では」
驚いた表情でイシュルが俺を見た。
彼も気がついたらしい。この驚くべき結論に。
「たぶん、別の魔物が運んだんだ。自分たちの勢力を広げるためにね」
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今週が実生活がちょっと忙しいため、水曜の更新はお休みし、次回は金曜日に更新いたします。