68 解放
エルマーの言葉に、もう一人の百騎長は不機嫌そうな様子だ。
おそらく最大の容疑者が無実になってしまえば、その後の報告や捜査を考えると面白くないのだろう。
「一応、確認してみますか」
とりなすようにエルマーが言う。
「すまない。馬車を開けてくれるか」
その言葉に護送兵が馬車の扉のカンヌキを外した。
「一体、何事ですか?」
外光を右手で遮りながら、俺は尋ねた。
眩しいのはフリだけど。
「出ていい?」
ノマが護送兵に尋ねる。
「すまないね。ただ中を確かめたかっただけなんだ」
エルマーが代わって答える。
「エルマーさん?なんでここに?」
「ま、いろいろあってね」
そう言いながら馬車を覗き込む。
「全員いるね」
「そりゃ、半ば閉じ込められているようなものなんで」
俺の嫌味を護送兵も王宮兵も無視する。
「他に隠れている者もいなさそうだ」
「隠れる?一体なにを言ってるんです?」
「奥の仕切りは?」
百騎長が馬車の奥を指差す。
「便所ですが」
「おい」
百騎長は部下に声をかける。
若い王宮兵が馬からおり、馬車に乗り込んできた。
「誰も隠れてはおりません!」
「そりゃそーでしょうよ。一体なんなんです?」
俺の再度の問いに、エルマーは肩をすくめた。鎧を着てるんで、よくわかんないけど。
「人探しさ」
まあ、おおっぴらに言えるのは、その程度だろうな。
「人探し、ですか?」
「わざわざ、王宮兵が追ってきて確認するくらい疑われているわけだ。いなくなったのは、我々が接触した人間ということか」
イシュルが探るように言う。
答えが分かっているのに推測したように言うと、賢くみえていいよね。
「それはご想像にお任せするよ」
知らない振りで探りを入れるのは、この辺までかな。
自然に振る舞うというのは、難しい。
「もう一台の馬車も異常ありません」
オロンたちの乗った馬車を確認していた兵が、報告した。
「やはり空振りだったようだな」
百騎長がエルマーに言う。
「日程的に無理がある話でしたからね。確認だけしとけば上も納得するでしょう」
二人の会話からすると、空振り覚悟の追跡だったようだ。我々の奥の手がない限り不可能な話だしな。
「ああ、最後に2層の兵士諸君。悪いが兜を取ってくれないか」
エルマーがそう言って、護送兵の顔を確認する。
「王宮を発ってから、増えたりいなくなった人はいないね?」
(わたしたちだけじゃなく、護送兵も確認ですかー。慎重ですね)
(やっぱり、エルマーは油断できない)
シャルたちの言葉に同感だ。
護送兵の確認を終えると、王宮兵たちは立ち去った。
俺たちは再び馬車の中だ。
「とりあえず、無罪を勝ち取った?」
ノマの言葉に、俺は首を振った。
「怪しいとは思われてるだろうな」
「まあタイミングが良すぎるもんねー」
「だが、疑いが晴れてなくとも、5層に戻れれば、問題ない。1、2層の連中は5層の深部に入ろうとは思わないだろう」
「5層に手を出そうとしないこと自体は問題だけど」
「その分、俺たちの好きにやらせてもらおう。人は増えたしな」
3層でやっと護送馬車から解放され、今までとは全く違う歓待を受けた。
今まで受けた仕打ちを考えると、涙が出るほどありがたい。
いくらマイダンジョンで休めるとは言え、やはり心づくしの歓待を受けると心に染みる。
1日トリモール城でゆっくりと休ませてもらった。
そして5層への帰路についたのであった。
「今回の旅で、上層の事をどう思いました?」
4層を歩いている時に、エスタが話しかけてきた。
読んでいただき、どうもありがとうございます。
それと誤字報告を頂きました。助かります。
しかし、この機能、初めて使いましたが便利ですねー。