61 展望
「少し話してもいいかな」
翌日、イシュルたちが「花園」とやらに案内されている時に、エルマーが俺の部屋にやってきた。
珍しく、シャルもノマもいない、1人っきりの時間だ。
「おや?奥さんたちは?」
「仲良くなった女中さんと厨房へ。料理を習うそうだ」
「それはそれは。愛する旦那のためにか。羨ましいね」
どちらかといえば自分たちで美味しいものを食べたいせいではないか、と思うんだが言わぬが花なので、黙って頷いておく。
「ちょっと付き合わないか」
「どちらへ?」
「訓練場へ」
うーん。場所を聞いただけで、用件がわかってしまう。
だが、それでもあえて聞こう。
「どんなご用事です?」
エルマーは、爽やかに見える笑顔を浮かべた。
「もちろん、腕試しさ。今の開拓村で最精鋭である君の実力を見てみたい」
「王宮兵百騎長として、ですか?」
「元開拓村尖兵として、さ」
さてと。どのくらいまで実力を見せていいかな?
エルマーの意図がどこにあるかは置いておいて、1層や2層とは、将来に対立する可能性が低くない。
俺としては、旧ダンジョン側は下層へ潜っていって、人類の生存権を広げることしか考えていないけど、それは王国の権威の低下を招くだろう。
王国と関係ないところで、ダンジョンが開拓されるわけだからね。
理想的なのは、王国のダンジョン平定軍とともに活動する事だが、今の国王に平定軍を起す気はなさそうだ。
3層と共闘する事は問題ないが、それは1、2層対3、5層の構図を生むだろう。
そのときキャシャール伯爵がどう動くかは、良く分からないにしても5層が、他の層と対立しないで済むというのは、まずありえなさそうだ。
だからといって対立を避け、今のままでいれば、いずれ人類は魔物に飲まれて滅亡するだろう。
ちょっと先走りすぎたが、特に1層の人間に俺たちの実力をどこまで見せるかは、悩みどころではあるのだ。
シャルとノマの試合みたいに、相手が話しにならないほど弱ければ、楽なんだけどな。