59 色ボケ
「そこの女2人。名を申せ」
一回目。
「直答差し許す。陛下は名を申せとの仰せだ」
「ここにおります、デレクが妻。ノマと申します。5層で尖兵をしております」
「同じくデレクが妻。シャルです。尖兵をしております」
既婚である事を宣言してみるが、国王はあまり意に介さない様だ。
庶民の婚姻なんて言ったもの勝ちだし、王侯貴族にとっては、なにそれといった感じだろうしなぁ。
「うら若く美しい女性が、尖兵などとはあまりにも惜しい。美しい女性は愛でてこそではないか」
「恐れながら、我らはオークをも刺す棘を持っておりますれば、1層に飾るのにはふさわしくないかと」
ノマが頭を下げながら言う。
国王への反論に、周囲がざわつくが、国王自身は身を乗り出した。
「なに、その方ら女性の身でありながらオークを屠るというのか!面白い。その実力を見てみたい」
あー、そうなりますか。
かくして我々は3層連続で、その支配者に実力を示すことになった。
呆気なかった。
2、3層での試合に勝る呆気なさだった。
魔法抜きで瞬殺である。
まあ無理もない。こちらがシャルとノマの2人に対して、王宮兵側も2人だったのだ。
王宮兵側のプライドが邪魔して、人数を増やすせなかった。
エルマーは、せめて倍の人数をと主張していた様だが、上役らしき将軍に一喝されていた。
今、その将軍は顔が真っ赤だ。
シャルもノマも、空気を読んで武器を使って試合をしたが、素手でやってたら、将軍は泡吹いて倒れたかもしれない。
「いや!見事である!」
手放しで喜んでいるのは国王だ。
召し上げたいな、などとほざ...おっしゃっていた。
女官と大臣らしき男が、なんとか押し留めようとしている。
側仕えをさせて暴れた場合に玉体を守る術がない、との大臣の言葉に不承不承頷いたようだ。
大臣、エライ!
シャルとノマをほぼ魔物扱いしてるがな。
いや、あながち間違いじゃないが。
「ところで、亜人の諸君の村には女性がいるのかな?」
やっと国王の興味がイシュルたちに向いたようだ。女性に関する興味だが。
「それは、いるが」
「実はな、余の宮にも亜人の名花たちがおってな」
「話しには聞いている」
「おおそうか。それは話が早い。どうであろう。そちらの女性で、余の花園に加わりたいものはおらんかな?」
「はあ?」
なにいってやがる、この色ボケが。
念話なしで、イシュルの飲み込んだ台詞が感じ取れる。
「我が国と友誼を結ぶ証として、どうだろう」
「うちの女性たちも、重要な戦力だ。くすぶって暮らしたがる者がいるとは思え、ませんな」
取ってつけた様な丁寧語でイシュルが断った。
「そう言わずに、聞くだけ聞いて見てくれ。そうだ。ものは試しだ。のちほど余の花園を覗いてみるがよい。余の名花たちが、いかに幸せに暮らしているかわかれば、余の花園に加わる女性を説得しやすかろう」
すげえな、小姓。この長い台詞を間違えなく俺たちに伝えやがった。
だが、その偉業も内容の馬鹿らしさに霞んでしまう。
なんだろうね。この、自分に都合のいい考え方は。
この思考の持ち主が、人族の頂点だということが恐ろしい。
ただまあ、今回は俺たちの目的に合致するので、それに乗っかるけど。
「とりあえずは、見させていただこう」
気乗りしない様子を前面に出して、イシュルが言った。
今回の1層への旅の最大の目的。
それは、ここに囚われているというエルフ、ドワーフ、ノームの奪取である。