58 謁見
「それにしても、エルマーさんが1層で偉くなってるとは思わなかったなー」
3人3様でだらしなくくつろいでいると、シャルがそんな事を言った。
胸元が無防備で、大変に喜ばしい。
「一時期、村で最強と言われてた人だしな」
「だいぶ感じ、変わった」
俺のベッドで寝転がってノマが言う。
胸元の無防備具合はノマの方が3段階ぐらい上だ。だが、ノマの場合、豊かさも無防備なので、見てるとなんかいけない気分になる。
「確かに。前は陽気な人って感じだったけど、今は良くも悪くも油断ならない感じだな」
「村で戦ってるのと、王宮で偉くなるのは、全く違うって事でしょうねー」
「村の方が、気楽でいいな」
「命のやり取りがあっても、数段気楽」
「今回の旅で、本当にそう思う」
そんな事を言い合いながら、エルマーはなぜ5層の生活を捨て、1層へやってきたのか、と考えた。
まあ、他人事であるのだが。
翌朝。
用意されていた謁見用の服に着替えて、謁見の間に案内された。
イシュル達でなく、俺たちも国王にまみえる栄に浴するらしい。
やたらと痩せた老人に、謁見の際の作法を教わる。
簡単に言うと、国王がいる間は立つな、顔を上げるな、喋るな。と言う事だ。国王が、2度促せば解禁。
えらい人の考える事は、よくわからんな。迅速、簡潔、確認がモットーのオドに感想を聞いてみたい。
それでも、ちゃんとやり方を教えてくれるというのは、2層と比べると好感は持てる。
偉くなるにつれ、酷さが増していったらどうしようかと思っていた。
痩せた老人に連れられて、謁見の間に入場する。
さすがに広い。
やはり広いと思っていて、実際試合まで行った2層の謁見の間と比べても倍はありそうだ。
そこに兵と諸官諸侯が並んでいる。兵はともかく、諸官諸侯は20名ほどだ。
正面の玉座は無人。
王座右手に、巨大で豪華な両開きの扉がある。
その傍に立つ男が、声を張り上げた。
「国王陛下、ご入来!」
全員が一斉に片膝を付き、頭を垂れた。
例外は王宮兵のみ。
さっき老人に聞いた話しでは、任務中の王宮兵のみは、国王の前で頭を下げる事を免除されるという。
まあ護衛対象から、長時間視線を外してたら仕事になんないしな。
イシュルたちも頭を下げているが、だいぶ浅目だ。
俺?忠良な臣民としては、深々と頭を下げてますが?
玉座横の大扉が開いて国王が入ってきた。
30歳ほどの神経質そうな男性だ。痩せてはいるが、締まっては見えない。着てる服が豪奢すぎて、体形がわかりにくいせいもあるだろうが。
続くのは、3人の若い女官。さすがに美しいが、後ろ2人が何故か鳥籠を一つづつ持っている。
さらに小姓と思われる男性が2人に、大臣と思われる2人の壮年男性が続いた。
頭を下げているのに、なぜそこまで見えているかというと、すでにシモベのネズミが潜入済みだからである。
「国王陛下、ご着座」
いや、それは叫ぶ必要はなくね?と思ったが、それを合図に諸官諸侯は立ち上がるらしい。
「一同、面を上げよ」
国王が囁き、小姓が呼ばわった。
まだ、1回目。
「陛下は、面を上げよと仰せである!」
2回目。やっと頭を上げた。
いや、面倒くさい。
「ほう。美しい女性がおるな。しかも2人も」
普通なら聞こえない国王の言葉を、シモベのネズミがとらえた。
最初に食いつくのが、そこかよと思わずにいられない。
「名を聞いてみよ」
(厄介事のヨカーン)
楽しげに言うなよ、ココア。