6 シャルとノマ
俺はいつもシャルとノマとパーティを組んでいるのだが、今日はある事情から別行動していた。
俺たち3人は、村の尖兵の中でももっとも優秀だと言われている。
捜索と潜伏が得意で、奇襲で魔物を混乱させる俺。弓矢に剣を得意にして、主たる打撃源となるシャル。攻撃、補助、回復と全ての魔法を得意とするノマ。
俺たち3人のパーティは、ここ2年ほど魔物討伐数で抜きん出てトップを維持している。
だが他の2人に比べると、俺の役割が地味に見えるせいもあるのだろう。他の尖兵たちから、凄いのはシャルとノマで、俺はそのお零れに預かっている、と揶揄する声もあった。
多分、シャルとノマが、若くて可愛い女性だから、いつも一緒に行動する俺への嫉妬もあるのだろう。
ついに今日、ガースという尖兵が、一回俺と交代してみろと言い出した。
ガースが入れば、もっと戦果が上がると言うのだ。
シャルもノマも、いい顔をしていなかったが、一度代わってみることに同意した。
俺を揶揄する尖兵たちのリーダー格が、ガースだったからだ。
俺にもそれなりの自負がある。捜索能力をなおざりにしている連中に、対魔物戦で劣ると思ったことはない。
それに捜索能力が、いつもより劣って奇襲を受ける事になっても、シャルとノマならなんとかするだろう、という安心感もある。
さらに、俺たちは互いの非常時を知らせる共鳴石を持っている。
そう思って別れて行動した結果が、目の前で繰り広げられている。
ココアからいろいろな説明を受けている時に、突如共鳴石が振動し始めた。
脳裏に浮かぶ場所は、丘を越えて森林地帯に入る際の辺り。
全速力で駆けつけてみると、シャルとノマが4体のコボルドと対峙していた。
その周囲には、いくつかの死体がある。
その状況を見てとるや、俺は立ち止まって息を整える。
魔力を集中して〈炎槍〉の魔法陣を念じる。
魔方陣に魔力が満ちた時、2人の背後に回り込もうとしているコボルドに向けて〈炎槍〉を放った。
ノマほどではないが、俺だって魔法は使えるのだ。
だが、命中した〈炎槍〉は、びっくりするくらいの威力があった。一発でコボルドが消し炭に変わる。
「そりゃあ、ダンジョンマスターになって能力が上がってますから。ちなみに、私が魔法を放つこともできますよ。魔力は共有ですが」
ココアが言うが、魔法はここでおしまいだ。2人とコボルドが接近し過ぎている。
短槍を手に、再び駆け寄る。
俺に気がついてもシャルやノマは、表情を変えない。ノマの振るう杖に力が篭り、シャルの口の端が少し上がったくらいだ。
一方コボルド達の動揺は大きい。突然の援軍に浮き足立っている。
さらに挟撃されている不利まで、理解しているか。
分かる頭があれば、退却していただろう。
だがコボルドたちは、中途半端に対応した。2人から俺へと、注意が逸れる。
シャルもノマも、その隙を見逃すはずもない。
シャルの剣が、続けざまに2体のコボルドの首をはねた。
残る1体は、ノマの杖によって頭部を粉砕される。
「魔法使いの方がワイルドって、どうなんだろうな」
返り血を浴びたノマを見て、思わず呟いた。
「第一声が、それ?」
血振りをして剣を納めながらシャルが言った。
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次回投稿は10日の予定です。
2018年12月8日 脱字を訂正しました。