56 再会
1層への「階段」を抜けて3日。俺たちは王都プリモールに到着した。
伝説では、400年前に王祖が誕生した村にそのまま城を築き、都としたという。
その伝説によれば、その王祖こそがダンジョンマスターということになっている。王国の礎を築いた後には、何処かへ身を隠し、そこでダンジョンを管理しているという。
その伝説をココアに教えると、彼女は呆れたような雰囲気を漂わせて言った。
(その伝説が本当なら、王祖は無能ですね。少なくともマスターとしては)
一応旧ダンジョンにおいては、王国の忠良な臣民ということになっている俺たちとしては、複雑な気分になる感想だった。
当たっているだけに余計に。
まあ、そんなダンジョンの人類全てを統治する(自称)唯一の王国(自称)の王都だけに、規模は想像を絶する。
さっき3日でついたと言ったが、正確にはプリモール自体には1日でついている。
そこから、中心部さらに王城に向かうのに、2日かかっているのだ。
あまりに大きすぎるので、街を囲む城壁はなし。幾重にも巡らせた運河が堀代わりになっている。
道行く人々の表情は悪くない。
比べてる対象が2層だから、余計にそう思うのかもしれないが。
馬車と護衛兵の様子も2層を通っている時とは随分違う。
2層では轢いたら轢かれた奴が悪いぐらいの勢いで走っていたが、1層では常識的なスピードで走っている。
ちなみにに俺たちに対する処遇は、変わっていない。変わらないどころか、魔法陣のないところには、絶対出さないぞ、という態度だ。
街に入って宿を取る際にも、俺たちは馬車から下ろしてもらえなかった。
理由が尊大さから恐怖に変わってしまったので、より厳重になった、ということだろう。
それもこれも、とりあえず今日までだ。
王城プリモールに付けられた馬車から、降り立つ。
城門の前に王宮兵がならんでいる。
隊長らしい赤髪の40手前くらいの男性が歩み寄ってきた。
装備は華美だが、足の運びが歴戦の風格を感じさせた。
少なくとも、今回の旅の中で見た兵士の中では飛び抜けて強い。
気のせいか、どこか見覚えがある気がした。
「ご案内役を仰せつかったエルマーと申す。5層のお客人の方々でよろしいでしょうか」
エルマーと名乗る男性に対して、イシュルたちも名乗る。
しかし、名前を聞いてオロンが驚いているのは、なんでだ?
「ご同行の方々もご苦労様でした。オロン殿、おひさしぶりです」
「王宮兵になっていたのか、エルマー」
あ、知り合いなのね。
「ええ。百騎長を務めさせていただいています」
「そ、それは失礼しました。見事なご出世振りで」
急にオロンの態度が改まったところを見ると、王宮兵の百騎長は相当格が高いのだろう。
「いやなに、尖兵時代に鍛えていただいたおかげですよ」
おっと。エルマー氏は、我々の先輩らしい。
驚きが表情に出たのだろう。エルマーがこちらに顔を向けた。
「こちらの若い諸君は?」
「ああ、これは私の息子、エスタだ。そっちの3人は、最初にイシュル殿たちに接触した尖兵だ」
「デレクです」
「シャルです」
「ノマ、です」
「デレク?」
エルマーが驚いた表情で俺を見つめる。
そして、そっと息を吐いた。
「大きくなったなぁ。覚えてるかな?俺は、君の両親に命を救われた男だ」