53 蹂躙
「うん。ちょっと面倒だな」
(おおっと、ここでイシュル選手、魔法発動のフリに入った!)
(あー、演技が下手ですねー)
「〈火球〉!」
(わかりやすくする為、魔法を宣言したァ!そして失敗の振りだ!)
(棒読み)
おいおい、辛辣だな。
ちょっと気になってココアに確認した。
(これ、イシュルに聞かせてないよな?)
(え?シモベ全員聞いてますよ)
(え?)
ドランとノエルを確認すると、口の端をヒクヒクさせている。
完全に笑いを堪えている表情だ。
(頑張れ、イシュル)
「ハッハッハ!国王陛下から賜った、魔法封じの魔法具だ。貴様の魔法など発動させるか!」
千騎長が高笑いした。
イシュルは明らかにイラッとしている。
千騎長の笑いとドランたちの笑いのどちらが、より効いているかは微妙な気もするが。
作戦を忘れて、魔法をぶっ放さないだろうな。
「魔法が使えようが、使えまいが結果は変わらんがな」
「ほざけ!」
(層兵は、盾装備のものがイシュル選手の動きを抑えようということでしょうか。盾をおしたて圧迫してきます)
(剣を持ってないので、思いきったんだろうけど、愚かな選択ですねー)
シャルの言うとおり、盾で押し込もうとした兵たちは逆に力負けしてバランスを崩している。
(おおっと、イシュル選手1人の盾を奪いました。すかさず、それを水平に投げる!)
ガコンという音が響きわたり、飛んできた盾を盾で受け止めた兵が吹き飛んだ。
そこからは、ただの蹂躙劇となった。
(一方的!イシュル選手一方的です!2層の兵は影を捉えることすらできません!)
千騎長は、分かりやすいグヌヌという表情をしている。
マイダンジョン側の視界の方は、獣人たちが熱狂的な応援をイシュルに送っていた。
(まさかイシュルの時代が来るとは)
ノマが苦笑している。
「待機している2隊を呼んでこい!急げ!」
千騎長が周囲を囲んでいる兵に叫んだ。
「応援が来るようだが、どうするね?」
ドランがのんびりとした声で、イシュルに尋ねる。
「まだ運動にもなっていないし、私だけで結構」
11名の兵を叩きのめした直後とは思えない気軽な様子で、イシュルは言った。
読んでいただき、どうもありがとうございます。
年度頭でちょっと忙しいので、しばらく短い話が続きます。
申し訳ありません。
なんとか、早めにペースを戻すように努力します。




