52 実況
ディモール城の控え室に戻る。
「お疲れ様〜」
シャルが微笑みながら言う。ノマは、コクリと頷いたのみだ。
「どんな感じ?」
「デレクも見てたんでしょう?誰も疑ってないわ」
「イシュルの煽りが効果的だった」
「向こうで会話しながらだと、どうしても注意がね。でも、いくら煽られても、よく戦う気になったな」
「層軍が強気な理由は、多分盾に描かれた魔法陣」
ノマに言われて良く見ると、イシュルを囲むように置かれた設置式の方盾の表面に魔法陣が描かれている。
「ありゃ、魔法妨害の魔法陣か?」
(その通りですね。でもイシュルたちでも余裕で無視できると思いますが。まあ、ちょっとは効果が落ちるかな?)
ココアの見立てに俺も賛成だ。
ココアから教えてもらった魔法封じの魔法陣や魔法妨害の魔法陣に比べると、だいぶ式が甘い。
「良くあれで強気になれるな」
「千騎長はアレ、魔法封じって言ってたからね。勘違いしているのかも」
たしかにマイダンジョンで獣人たちと話している時に、イシュルの方で「魔法封じの力」とか、千騎長がいきっているのが聴こえていた。
俺たちもココアに教わるまでは、魔法陣の知識って、ほぼなかったから間違えるのも無理はないのかもしれない。
いずれにしろ、これは利用できる。
(イシュル)
(はい。マスター)
(魔法を使わずに勝てるか?)
(もちろんです)
(じゃあ、一回魔法の発動に失敗する振りをしてから、魔法抜きで勝ってくれ)
(はっ!お任せ下さい)
イシュルの今度の相手は、1隊の兵士だ。俺が3層で戦った時と同じだが、イシュルは魔法以外は隠す必要はない。
イシュルが言うように、魔法なしでも勝つのは簡単だろう。
難しいのは、
(殺すのはナシだからな)
ちょっとイシュルの返事が遅れる。
(半殺しは、いかがでしょう)
(連中の回復魔法で、回復可能な範囲で)
(承りました)
(さあ!レギュレーションも決定しましたところで、注目の一戦の開始です!)
はい?ココアさん?
(第2層正規軍対イシュル。実況は、わたくしココア。解説には、シャルさんとノマさんにお越しいただいてます)
(よろしくー)
(ども)
え?なに?この茶番。
(第2層正規軍ですが、鎧にも手持ちの盾にも魔法妨害の魔法陣を入れてますね)
(方盾に増して出来が悪い)
(ノマさんの言う通り、効果の出るギリギリのラインの出来ですね)
(おっと槍兵が前に出ましたよ)
(おお!槍兵4人が歩を進めました。そして槍を突く突く、突く!怒涛の連撃だ!)
(イシュル君、落ち着いてますね)
(シャルさんの言う通り、イシュル選手落ち着いてさばきます)
イシュルは、必要最小限の動きで4本の槍を躱している。
特に緩急もつけずにゆっくりと動いているので、一見戦っているようには見えない。
(おっと!ここで掌底で、1人吹き飛ばした!)
ココアのセリフに歓声がかぶる。
一体何事?と思ったが、マイダンジョンのナニーの視界で、喜んでいる獣人たちが見えた。
彼らの目の前の空間に、イシュルの戦い様子が映し出されている。
(ココアの仕業か?)
(とんでもない。ヴァニラの魔法ですよ)
(けしかけたのは?)
(…私です)
彼らも盛り上がっているようだし、まあいいか。
いろいろ虐げられていたっぽいし、発散は必要だろう。