50 消滅
2019年3月27日:誤字を訂正しました。
2019年4月6日 ;獣人たちの口調を訂正しました。
年齢も性別もバラバラの獣人たちは、一様に汚れた衣服と首輪とを付けている。
身体は痩せ細っているが、燃えるような目で侯爵を睨んでいるのも共通していた。
「愚かな反逆者どもよ!侯爵閣下の御慈悲である。そこにいる3人の亜人どもと戦って、勝利せよ!第2層の武威を示せば、罪一等を減じ死罪を免じてくれよう」
獣人たちは、イシュルたちを見て、そしてすぐに侯爵たちを睨んだ。
「俺たちゃ、こいつらに恨みはねぇ。そんなことで命を惜しむもんかよ!戦うなら、お前らとやらせろ!」
「誰がお前らの意見を聞いている」
そう言いながら千騎長は右手に持ったこと金属製の板を操作した。
「あぐっ!」
一番若い5、6歳の犬系獣人の少女が、首を押さえて苦しみ出す。
おそらく首輪が締まっているのだ。
首を掻き毟るようにして苦しむ少女の様子に、最初に声を上げた熊系獣人の青年が折れた。
「わかった!戦う!戦うから、やめろ!」
「フン」
千騎長は鼻を鳴らして、金属板を操作する。
少女は、首を掻き毟るのをやめたが、激しく咳き込み、真っ青な顔で立つこともできない。
それを熊系獣人の若い女性と猫系獣人の少女が、介抱している。
「おめぇたちに恨みはねぇが、こういうことなんですスマんな。殺さないようには、する」
「気にするな。そちらがどう戦おうが、あまり影響はない」
イシュルが淡々と応じる。
「武器も防具もなしで、そのまま戦ってもらおう。蛮族には相応しかろう?」
「特に必要ないしな」
千騎長の嘲りに、イシュルは平然と返した。
オロンたちが避難し、周囲を兵たちが取り囲む。槍や抜身の剣を構えて、完全に戦闘態勢だ。戦う振りで侯爵たちを襲うとでも思っているのだろう。確かに獣人たちは、やりそうだ。
獣人たちは、一塊りになって腰を落として構えている。
一方、イシュルたちは、イシュルのみ残して二人は後ろに下がる。
「一人で戦う気か?負けた時の言い訳にはならんぞ」
千騎長が言うと、イシュルが肩をすくめる。
「街一つを落とすなら、3人でやるが、この城くらいまでなら一人で十分だな」
「フン。その大口に見合う実力か、見せてもらおうか」
「いくぞ?」
千騎長を無視して、イシュルは獣人たちに向き合う。
獣人たちは、さらに腰を落とす。
飛びかかろうとする瞬間、イシュルが動く。
右人差し指を立てて、軽く振った。
その瞬間、獣人たちの中心で閃光が走る。
部屋にいる全員の視界が奪われる。
閃光は、3度に渡って奔った。
「え?」
女性の声が一瞬して、やがて熱が伝わってきた。
視力を取り戻した一同が見たものは、何事もなかったかのように佇むイシュルだけだった。
獣人たちは、いない。
彼らのいた場所は、石の床が溶岩と見紛うばかりに赤熱していた。
「これでは実力は計れないな。どうする?この城でも落として見せようか?」
感情を感じさせないイシュルの声が響いた。
◇◇
信じられなかった。
僕は、信じられなかった。
「エスタ。大丈夫か、怪我はないか?」
父さんが見当はずれの心配をしているが、僕は黙って頷いている。
信じられないというのは、イシュルさんの行動についてだ。
彼らと会ったのは最近だけど、それなりに理解しているつもりだった。
特にイシュルさんは、無愛想で融通はきかないが、子供には優しい人だと思っていた。
少なくともこんなことを平然とする人ではなかった。
でも、獣人たちは最初からいなかったみたいに、消えている。イシュルさんの魔法に焼かれたのだろう。
まわりを兵士が囲んでいて、入口も閉まっているのだ。他に考えられない。
「しかし凄いな。痕跡も残さず焼き尽くすとは」
父さんの言葉にハッとなった。
そうだ、凄く協力な魔法で焼いたとしても、消せないはずのものまでない。
おかしい。
方法はわかんないけど、獣人たちを助けたんだろう。
だからないんだ。
焼けた匂いが。
あれれ〜?おっかしーぞ〜〜。
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読んでいただいて、どうもありがとうございます。
次回、獣人たちはどうなったのか?!(バレバレ