46 見えない意図
トリモール城には、しばらくの間滞在することになった。
王都まで差し向けた先触れが戻るまでの間だ。
ついでに、村に予定よりも遅れることと、3層の兵が派遣されることについて、伝令を出してもらった。
先触れが戻るまでの間に、出来る限りの情報交換をする。
こちらからは、肥料の話や真木の話、それに魔物の生態など。
俺たちの第1目的は、マイダンジョンの成長だが、こちらのダンジョンにだって愛着はある。
このままの状態では、旧ダンジョンは瘴気が満ちて魔物のみのダンジョンになりかねない。
それは、避けたい。
第3層の実情を確認して、俺はシャル、ノマそしてココアにそう宣言した。
「そうねー。ここの兵士を見てると1、2層の兵士も当てにできないでしょうし」
夕食後の俺に割り当てられた部屋で、シャルがげんなりしたように言う。
彼女にしては珍しい態度だけど、兵士の教官役として、3日ほど過ごした正直な感想の結果だろう。
俺も充分呆れてるしね。兵のみんなが悪いわけじゃない、というのはわかるんだけど。
「昨日、街で瘴気の澱みから爪鼠が出た」
「ああ、なんか騒いでたな」
ノマの言葉に、昨日の騒ぎを思い出した。兵士が、大勢出動して大騒ぎをしていたので、何事かと思ったら爪鼠一匹と聞いて拍子抜けした。
もっとも俺たちの感覚では、子供でも狩れる雑魚魔物でも、都市に住む住人たちにとっては、脅威にはなるだろう。
「あれ、隊で取り囲んで倒してた。あれじゃレベルは上がらない」
「「はあ?」」
俺とシャルは、愕然とした。
魔物を倒すと、協力した者に魔物の生命力が経験値として分配され、溜まった経験値によってレベルアップが行われる。
当然ながら得られる魔物の生命力は、一匹ごとに決まっているので、戦闘に参加した人数が多ければ多いほど、一人当たりの得られる経験値は少なくなる。
魔物との戦いは、得られる経験値と犯す危険を天秤にかけて、最小の人数で行うのが望ましい。
爪鼠程度で11人で戦うなど、一人当たりで得られる経験値は、ほとんどないだろう。
「魔物と戦うやり方も、伝わってないのか」
「前回の平定戦で、ベテランが失われたとは言いますがねー」
「それ以前の程度も疑問ね」
我々は揃ってため息をついた。
「まあ、いい方に考えよう。5層に兵士を派遣するなら、そこで鍛えられる」
「そうね。今回伝えられることは伝えておいて、少しでも底上げしよう」
3人でこれからの方針を確認しあう。
(それにしても、ちょっと気になるのが旧ダンジョンのダンジョンマスターなんですよね)
ココアがそんな事を言い出した。
(基本的な知識も伝達していないし、まるでダンジョンを全く管理していないみたいです)
「ダンジョンマスターが、魔物なんじゃないの?」
俺が言うと、ウーンと考え込む気配がした。
(ライブラリを確認したら、魔物のマスターでも人類の育成をするんですよね。逆に人類のマスターでも、魔物の育成はします)
「それは何故?意味ない気がするけど」
ノマが尋ねる。
(簡単に言っちゃうと、それがダンジョンマスターの本能だからですね。魔力と瘴気のバランスのとれたダンジョンを作る。それがダンジョンマスターの役割です)
「なるほど?」
と言いながら、俺には実感がない。その本能とやらは俺にはないのか。
(魔力と瘴気のバランスを考え始めるになんて、10層を超えたあたりからですよ)
「今は、成長のみを考える時期って事ですかー」
(そういう事です。逆に50層を超えていそうな、旧ダンジョンはバランスを最優先で考えるはずなんですがね)
「どう見てもバランスを取っているようには見えない」
(その通りです。まあ、だからこそ私が生まれたんで、私が文句言っちゃ、いけないかもしれませんが)
「なるほどね」
(こっちのダンジョンマスターの意図が、見えないのは気になりますね)
意味ありげに言っても、今のところ俺たちの行動に変わりはないからね?
(いやぁ、格好つけたいじゃないですか。賢く見えません?)
「あー。はいはい」