45 低レベル(いろんな意味で)
「本来なら、ダンジョン平定軍を起す時に主力となるのは、開拓局の依頼を受けた国王軍だ」
先程の応接の間に戻り、茶で喉を潤しながら伯爵が言った。
俺たち一行に、伯爵親子、百騎長、それに最初に戦った十騎長が椅子に座っている。もちろん、護衛も多数立っている。
「だが実際は違う」
伯爵が意味ありげにオロンを見た。
オロンはオロンで渋い表情だ。
「国王軍は十騎長の指揮する中隊が出てくれば上出来。前回の平定軍には十騎長のみが、陛下の名代として参加した」
「主力はもちろん、第3層の兵たちだった」
伯爵と公子が交互に説明する。
「そして貴公らも良く知っていると思うが、平定軍は大敗し我が兵たちも多く犠牲になった」
「しかも、友兵を逃がす為にベテラン兵の犠牲が多かった」
「新しく今上陛下が即位なさって以来、平定軍を起す気配はないが、いつかは再開されるだろう。しかし、ベテラン兵が減り5層への遠征の機会が激減している今、なんの対策もなしに派兵すれば、新たな悲劇が起こるのは明らかだ」
話しているうちに伯爵の勢いが止まらなくなってきた。
だが、話している内容が内容だけに、水を差したり茶化そうとは思わない。
兵のことを考える良い領主だよなぁ。
「そこでだ。第3層の兵を中隊ごとに交替で、5層に送り込みたいと思っている」
「いや、それはしかし」
「なるほど」
オロンは渋り、ノマは大きく頷いた。
「層を跨いで兵を送るのは、平定軍以外では異例では?」
オロンが尋ねるが、伯爵は首を振った。
「むしろ日常的に行っているだろう。うちも貴公らも、第4層に兵を出し魔物を狩っているはずだ」
確かに。
「第4層なら良くて、第5層はイカンという事はあるまい」
「逆に3層では、最近4層にあまり兵を出していないと聞きましたが」
ノマが尋ねた。前の氾濫の時に尖兵の数が足らなかったのは、それが原因だったはずだ。
「それは、儂の進言故だな」
百騎長が応える。
「4層の魔物を狩っても、大した訓練にならんしレベルも上がらん。それより、3層でみっちり訓練をした方が、兵は強くなる、とな」
そこで百騎長は苦く笑った。
「間違っておったようだがな」
「間違いってわけじゃないと思いますが。ようは訓練と実戦の比率ですよねー」
「訓練は大事。でも想定した事しかできない」
「確かにな」
シャルとノマの言葉に、百騎長は頷いた。
「ということで、貴公らが5層に戻る際に、うちの兵を同行させたい。もちろん糧食も携帯させる」
「おそらく最初は村の近くの魔物を狩るだけでしょうが、そちらの損にはならないと思う」
いや損どころの騒ぎじゃない。
魔物の弱い南北のどちらかを持ってもらうだけでも、尖兵の配置がだいぶ楽になる。
一つ気になる事があった。ので、確認しておく。
「層軍の兵士の平均レベルは、いくつですか?」
「…4だ」
十騎長が恥ずかしそうに答えた。
「えっ?」
5層組が一斉に驚きの声を上げた。
「嘘でしょ?」
シャルが口をあんぐりと開けた。
非礼と言われるかもしれないが、まあしょうがない。
今までの訓練か実戦かという話はなんだったんだ、という事だ。
「まずやるべき事は、4層でのレベル上げでは?」
恐る恐る言うと、十騎長は恥かしげに俯き、伯爵親子は「やはりそういうものか」などと言っている。
一人、百騎長が憮然としている。
「レベルなど飾りだ!」
はあ?
5層組全員がなに言ってんだ、こいつ。という目をしている。
俺はエステを示しながら言う。
「この少年がレベル6ですが、村では尖兵見習いで、やっと5層での戦闘を許される程度です。レベル4なんて、コボルドに虐殺されるだけですよ」
百騎長は、ブンむくれている。
こりゃアレだな。若い時に高レベルの人間に恨みを持ったとか、そういう奴だな。
しかも、女取られたとか、そういう下らない私怨だ。そうに違いない。
詳しく聞いてみると、最精鋭たる十騎長の中隊は、全員7レベルということで、ちょっとホッとした。
ただしそれで平均4レベルということは、他がどれだけ低いんだ、ってことになるんだが。
伯爵と話しあって、俺たちが5層に戻る時に十騎長の中隊が同行し、他の兵は4層でレベル上げという事で話しがついた。
しかし、3層でこれなら、王国全体の兵力はどうなってるんだろうね?