43 模擬戦
「どうしてこうなった」
城の中庭の一角、そこだけ一般の住人が出入り出来ないように仕切られ、壁で目隠しもされている部分で伯爵の兵と対峙しながら、そう呟いた。
ここは練兵場なのだろう。他にも何十人という兵がいて、俺たちを見物している。
さらに伯爵親子にその護衛、オロンたち開拓村一行もいて、完全に見世物状態だ。
「十騎長は、我が兵の中でも手練れだ。遠慮なく戦ってほしい」
伯爵がそう言うと、相手は訓練用の刃引きの剣をブンブン振り回した。
「伯爵閣下、私の戦い方は魔物相手の邪道な方法です。皆さんの参考にはならないと思いますが」
さっきの部屋で言った事を繰り返す。伯爵の返事も、さっきの繰り返しだ。
「その魔物との戦い方を参考にしたいんだよ」
伯爵がニコニコしながら言う。
「その通り。我々は先のダンジョン平定戦以後、ほとんど魔物と戦ってないからね」
公子が言葉を継いだ。
「そういう事でしたら。しかし、俺たちの戦い方でやるなら、全く面白味がないと思いますよ」
「すぐ終わる」
おい、ノマ。煽るな。
慌てるがノマは涼しい顔だ。
伯爵の若手に立つ、煌びやかな鎧をつけたおじさんが、俺を睨んでいる。
煽ったのはノマなのに、解せぬ。
「用意はいいかな?」
公子が確認した。
「では、始め!」
開始の声がかかると、一拍おいて〈軟泥〉を十騎長の足元にかける。
「俺たちの戦い方だと、こうなっちゃうんですが」
膝まで泥に浸かり、身動きが取れなくなった十騎長を見ながら言う。なるべく、申しわけなさそうに聞こえるといいんだが。
伯爵と公子は、しばらく唖然としていたが、クツクツと笑い出した。
「十騎長には申し訳ない事をしたな」
兵たちに泥から救出された彼を見ながら、伯爵が言った。
「悔しいですが、有効な手だと言うのは認めざるを得ませんな」
泥だらけの十騎長が、固い地面の上に座り込んで言った。
「特に力任せの魔物には効くでしょう」
一方で、もっと偉いのであろう鎧のおじさんは納得がいっていないようだ。
「小手先の技ですな」
「そう言うな百騎長。魔物との戦いで得た、実戦的な技だぞ」
「ハハッ」
伯爵の言葉に頭を下げるが、納得いっていないようだ。
「ふむ。もう少し胸を借りてみるか?」
百騎長の様子を見て、伯爵が言った。
そして
「だから、どうしてこうなった」
目の前で武器を構える11人の兵士を見て、俺は呟かざるを得なかった。
11人の兵士たち。いわゆる什とか隊と呼ばれる王国軍の最小単位だ。
騎乗士の隊長と徒士の伍長が一人づつに、兵が9人の構成になっている。
兵たちは隊長と伍長に率いられて、横に長く配置されている。
5名が弓を持ち、隊長と伍長の脇に立っているのは、おそらく魔法使いだろう。
それ以外の兵は槍を構えている。
「ガチじゃないか」
兵を散開させ〈軟泥〉を一度に食らいにくくし、たとえ食らっても弓や魔法で対抗する。
俺が接近しようとしても、リーチの長い槍で懐に入らせないようにする。
さっきの俺の戦い方を見て即席で対抗したと思えば、満点の布陣だろう。
まあ、甘いんだけどね。
読んでいただき、どうもありがとうございました。
ちょっと短めですが、2戦目に行くと少し長くなりそうなので、ここで区切らせていただきます。
1戦目があっさりと終わらせすぎてしまいました。まあ、戦ってないんですが(笑)