41 トリモール城
「ふへぇ。デカいなぁ」
思わず間抜けな声を上げてしまった。
目の前に広がるトリモール城の威容の為だ。
遠くからでも目立っていたが、間近に立つと迫力がが違う。
東西南北の街道に対して角を合わせた巨大な四角形が、基本の形だ。中心部に「階段」がある為、巨大な中庭があって、四方の辺にあたる部分にある巨大な門から自由に出入りできる。
建物部分は石造りの総四階建てで、四角の角の部分が角のように尖って突き出しており、最先端には塔が立っていた。
大まかに言うと星型と四角形のあいだをとったような形だ。
もちろん周囲には堀が巡らされ、綺麗な水が流れている。
「これだけ大きな石造りか。石を切り出すだけで大変だったでしょうねー」
「気が遠くなる」
シャルとノマも感嘆しきりだ。
一方のイシュルたち3人は、イシュルが無関心。ドランは「細工が甘い」などと、ブツブツ言っていて、素直に驚いているのはノエルのみだった。
「中庭には、自由に入れるんですね」
エスタが目を見開いた。
確かに「階段」のある中庭に通じる大門は開け放たれている。
それどころか、屋台が何軒も出ていて、ちょっとしたお祭りのようだ。
「城の中庭だよな、ここ」
「第三ダンジョン卿のキャシャール伯爵家は、代々おおらかな方で、ここを解放してる、もう百年になるそうだ」
オロンが解説した。
「貴族のイメージが変わるな」
「言っとくが、キャシャール伯は例外中の例外だからな」
まあ、そうだろうな。
俺たちは中庭の中で衛兵が立っている一画に向かった。そこが城への入り口らしい。
「私は第5層開拓村の開拓局員オロンという。ミュート殿に取次ぎを願いたい」
そう言いながら、オロンは掌に収まるナイフを衛兵に見せる。
よく知らないが、そのナイフが身分を証明するらしい。村長も、もう少し大振りのナイフを持っていた。
「しばらくお待ちを」
衛兵の一人が詰所らしき場所に一旦引っ込むと、伝令らしき少年が城の中へと走っていった。
待つ事10分ほど。
中庭で賑わっている人々から「エルフよ」「ドワーフだ!」などと注目を浴びながら待つので、倍以上の時間に感じる。
城から悠然と恰幅のいい男性がやってきた。
「オロン殿、お久しぶりだな」
「ミュート殿、お変わりなく」
中年のおっさん二人が、まあまあなんのなんのと久闊を叙している。
城門の前でやることかね、と思いながらボーッと立っていると、ミュート氏がやっとそのことに思い至ったらしい。城内に招き入れられた。
城内に入ってすぐの部屋に通された。
身分の高くない正体不明の人物を、とりあえず通す部屋といったところだろうか。
調度の良し悪しはわからないが、あまり高くはなさそうだ。
「珍しいお客人をお連れだな」
ミュート氏がイシュルたちを見て言った。
ちなみにイシュルたちの機嫌は最悪だ。
理由は簡単。みんなが座るなか俺、シャル、ノマが立って後ろに控えているからだ。
俺たちは旅の護衛役という位置付けなので、当然のことなんだけどね。
「彼らは5層で発見された集落の代表者でね。王都に挨拶に行く途中なのだよ」
「挨拶?」
オロンの言葉にミュートは首を傾げた。
「5層も平定できないような国に恭順する気はないな」
イシュルが言う。
機嫌が悪いからといって、喧嘩腰はやめーや。
オロンもミュートも顔が引きつってるじゃないか。
「いやいや、ははは。そういう事でしたら、我が主人の耳にも入れなければなりませんな」
どういう事だか良くわからないが、ミュートはハンカチで顔の汗を拭きながら、そそくさと部屋を出ていった。
残された俺たちの間で、微妙な空気が流れる。
「イシュルさん」
非難を込めて、イシュルの名を呼んだ。イシュルが、ピクリと反応する。
「いや、そんなことより皆さんも座ってください」
助け船を出したのはノエルだ。さすがシモベ一空気が読める男。
勧めに応じて俺たちも椅子に腰を下ろした。
「それにしても、ちとビビリ過ぎではないかな」
ドランが髭を扱きながら言う。
「文官でしょうからねー。無理もないのでは?」
あ、ミュートのことなのね。さっきのイシュルのことかと思った。
そんなことを言い合いながらマッタリと待っていると、ドアがノックされミュートが入ってきた。
「伯爵閣下がお会いになるそうです。お支度ください」