40 層都トリモール
さらに2日ほど滞在して、子供たちの働きぶりを確認した。
「みんな働き者だよな」
「孤児院から、こんなものでしたからね」
俺が感心していうと、アモスは笑って応えた。
5歳の子も、畑の草むしりや小屋の掃除といった仕事をこなしている。開拓村でもここまで働き者の子供は、少ないだろう。
「もし、なにかあったらこれを使いな」
そう言って共鳴石を3つ渡した。
「全て俺たちの共鳴石と同調してある」
「ありがとうございます」
アモスは、押し戴くようにして共鳴石を受け取った。
「ではな。元気でやりなさい」
オロンが鷹揚に言う。
「はい、ありがとうございます」
その脇で子供たち、特に幼女に別れを惜しまれているのはイシュルだ。
ドランとノエルも人気があるが、どちらかというと男の子人気だった。
それに対してイシュルは、圧倒的な幼女人気であった。10歳以下の幼女全員から「大きくなったらケッコンしてあげる」とプロポーズを受ける偉業を達成している。
シャルとノマからは「幼女キラー」という称号を授けられた。
もちろん、その偉業と称号は念話により、留守番の女性シモベ陣に伝えられている。
オニだな、お前ら。
笑顔と少しの涙とともに、俺たちはガルテア子爵領の村と別れを告げた。
それからの旅は、至極順調だった。
第3層の中心部、層都トリモールに近づくにつれて、村や町は豊かになっていく。そして、そういった村々には領主が駐在している。
「こういった村が普通なんだがな」
昨夜止まった村の領主に別れの挨拶をして、オロンが呟いた。
「昔からの領地と新しい領地に、なんでこんなに差があるの?」
エスタが父親に尋ねている。
「統治の方法については、今の国王陛下の方針なんだろうな」
自信なさげにオロンが答えている。
まあ、確かに開拓村に引っ込んでいる俺たちには、わからない話ではある。
ただ、ダンジョン平定戦を行わないことといい、貴族を増やして統治方法を変えていることといい、今の王様はいろいろと変化を起こそうとしているようだ。
それが王様自身の意思なのか、変化が良いことなのかどうなのか、は別として。
さらに2日後。開拓村を出てから18日目。
俺たちは第3層層都 トリモールに到着した。と言いたいところだが。
「どこからがトリモール?」
ノマが首を傾げたように、トリモールの境がわからない。
普通、村や街の外周には城壁や柵、堀を巡らせるものだ。実際いままでの3層の村で例外はガルテア子爵領の村だけだった。
それがトリモールには見当たらない。
「まさか、まだ街に入ってないの?こんなに賑わっているのに」
呆れたようにシャルが言った。
「入ってないんだろうな。恐ろしい事に」
俺が言うとオロンが愉快そうに笑った。
「もうとっくに入ってるぞ」
「え?」
「2時間くらい前に関所を抜けたろ?」
「あれ、街道の関所じゃないのか!」
確かにあの関所のあとから、家は増えたけど。
「確かにあそこから層都だとすると、城壁は作れないかー」
シャルの言葉に俺も頷く。街が大き過ぎて、城壁や堀じゃ囲えないだろう。柵だって大変だ。
「そうでもないぞ。2層のバイモールや1層のプリモールには、ちゃんと城壁がある。トリモールにないのは、歴代の第三ダンジョン卿の方針だな」
オロンが教えてくれる。ちょっと得意気なのは、ご愛嬌だろう。
「へえ」
「第3層でこれだけ魔物がいないのだから、1層や2層で城壁が必要だとは思えませんがね」
「まあその通りだがな、イシュルよ。城壁の相手が魔物だとは限らんということさ」
イシュルとドランの会話に、オロンの表情が苦いものに変わる。
「それはそれとして、早めに城に入りましょう。どうも目立っていけない」
ノエルが居心地悪そうに言う。
確かに人通りが増えるに連れエルフ、ドワーフ、ノームの3人組は目立ちまくっている。
シャルとノマも、男性の目を惹きまくっているので、俺たち一行は、目立つことこの上ない。
「なんとか層城で、馬車を借りたいな」
「貸してくれますかねぇ」
「駄目でもともとさ。どうせ、『階段』があるのは層城なんだ。無駄足にはならないだろ」
そう言って俺たちは足を早めるのだった。