39 村の決意
この村の手助けをすると言っても、俺たちがいなくなって続かないんじゃ意味がない。
村の年長組に教えながらの作業となる。
「本当にありがとうございます」
さっきからアモスはお礼を言ってばかりだ。特に、ノマに治癒魔法で、傷を治してもらった時は、土下座をする勢いだった。
アモスが猟に出て、イノシシに怪我をさせられたのが、今回の困窮のキッカケというから気持ちはわからないでもない。
そのアモスは、運動能力の高い子3人と共にイシュルと猟の実地訓練を行うことになった。
メリーともう一人、魔力が高めの子がいたので、そちらはノマが魔法の指導をする。
とはいっても時間の関係で大した事は出来ないだろうが、基礎訓練の方法と地魔法を一つ二つ教えておきたい。
残りは開墾と畑の手入れだ。
今の畑をもう少しまともにする他に、さらに倍以上の面積は欲しい。
聞けば全員、孤児院時代に畑仕事はやっていたが、畑自体を一から作った事はないそうだ。
2層だったら、そんなもんだろう。改めて開墾する土地が残っているとは思えない。
それから1週間。全員の努力(ドランは除く)で、村は見違えるようになった。
ドランの名誉の為に付け加えれば、彼も彼なりに頑張ってはいた。ただ、畑仕事の経験が、子供たち以下だっただけだ。
畑は倍以上に広がって、すでに一部の畑で実りを迎えている。これは、もちろん〈育成〉の魔法による。開墾そのものも地魔法が大活躍した。
熟練の魔法使いがいないと使えない方法だけど、当座の食料確保の為にイシュルとノマのサービスだ。
切り倒された木々は、材木や薪として乾燥中だ。
猟も獲物が安定してきている。
軒先に内臓を取り血抜きされたイノシシやウサギがぶら下がり、一部は新たに作った燻製小屋で燻製にされている。
取り除いた内臓は、結界石を使って肥料化している。まだ日がないので、処理の途中ではあるが、結界石の作り方も含めて伝授済みだ。
「一通りやる事はやったかな」
ここ一週間では珍しく、シャルとノマと3人きりになり、まったりとする。
「正直、彼らを向こうに連れていくのかと思ってたんだけどねー」
シャルは「向こう」のところで、念話でマイダンジョンと重ねて言った。
「それも考えたんだけどね。でも彼ら自身が希望を失ってないみたいだしね」
シャルは、良くわからないといった表情だ。
「彼らがここでやっていけなくて、ここを捨てる算段をしているなら、連れて行くって事」
「素直にアモスたちに、聞いたって言えばいい」
ノマがぶっちゃけた。
「他への移住、ですか?」
俺が、もう少し楽なところに移住する方法もある、と言った時アモスとメリーは戸惑ったように顔を見合わせた。
「みなさんのおかげで、ここも十分住み安くなりました。なんとか、頑張っていきます」
「それに」
メリーがソバカスだらけの顔に、優しい笑みを浮かべて言った。
「あたしたちのいた孤児院には、まだたくさんの子がいます。彼らがこの村で引き取れるくらいに大きくしたいんです」
メリーの言葉に、アモスも力強く頷いた。
「なるほど、そんな事を言われたら、連れてはいけないですねー」
シャルが納得する。そしてイタズラっぽく笑って続けた。
「それでわざわざ、ナニーに連絡して、ここの近くに入口を開いてもらったんですねー」
「支援する気満々」
二人がニマニマ笑っている。
二人の言う通り、ナニーにマイダンジョンからの入口を作ってもらっている。これでダンジョン利用式の瞬間移動で、いつでもこの村にやってくることができる。
「悪いか?」
「いえいえ」
「とてもいいこと」
なんかからかわれている感がして、悔しい。
(でも感じちゃう。ビクンビクン)
ココア。
(はい?)
だ・ま・れ。
(は〜〜い)