37 第3層の村
2019年2月24日 話数が間違えていたので訂正しました。20話くらいからずっとずれていました。
「ほ、ホントに食べていいのか?」
全面降伏して無限収納袋(偽)から取り出した食料を提供する俺たちに、小さな盗賊たちはオドオドと尋ねた。
「ああ、焼いてやるからちょっと待て」
よだれを垂らしそうな表情で頷く盗賊たち。やせ細っているが、着ている服は粗末で汚れてはいるが、一応きちんとしているのが救いだろう。
食事の用意を始める俺たちに、オロルでさえ嫌な顔をしない。
「あ、ありがとう!」
リーダーらしい少年が、頭を下げるが、妙にモジモジとしている。
「どうした?」
優しくノマが尋ねる。
「その、村のみんなにも分けてやりたい。駄目かな」
「村のみんな?」
「他にもいるんですか」
「村みんなで、30人くらいがいる」
俯いて少年が答えた。
「まだ元気な奴を連れてきたんだ」
「あ、それくらいの人数ならなんとかなるわね」
「じゃあ、村まで連れて行って」
「いいの?!」
少年の言葉に、全員が我が方のリーダーたるオロンの方を見る。
「ああ、うん。まあな」
オロンが躊躇いながらも頷くと、少年が泣きながら頭を下げる。
「ありがとうございます!ありがとうございます!」
「そそそ、そんな事より、早く村に案内しなさい」
焦りまくって、妙に高圧的になるオロン。それを暖かい目でエスタが見守っている。
立場が逆だろう、普通。
広げ始めていた食事の用意を手早く片付けて、今いる子たちに、とりあえず干し肉を配った。
「良くしゃぶって、柔らかくなってから噛めよ。あと飲み込む前によく噛んでな。でないとお腹壊すぞ」
干し肉を握りしめる子供たちに注意を与えてから、リーダー格の少年の案内で歩き始める。
獣道よりも分かりにくい脇道に入り、細い岩清水のような小川を目印に歩く事1時間ほど。
山合いの中にぽつんと広がる平地に出た。木々が生い茂り、あまり見通しが効かないが、それなりの広さがあるようだ。
動物の気配は濃いが、魔物の気配は全くない。
そこを少し進むと、やがて村が見えてきた。
なんというか、村と呼ぶのは、少し躊躇わざるを得ない。
建物は、大きめの粗末な小屋が2つきり。畑は、小石どころか木の根もあちこちに残っている。
小麦や野菜を育てているようだが、収穫量は期待できないだろう。
「みんなー!ご飯がもらえるよ!」
そう叫びながら駆け出した子供たちの声に、片方の小屋から人が出てくる。
「みんな子供」
呆然と呟くノマの言葉通り、盗賊紛いのことをしていた子達と変わらない背格好の子供たちが14、5人出てきた。
最後に出てきたのは、16、7歳の成人間近に思える男女だ。男性は、右足を怪我しているらしく、女性に支えられている。
「よし!みんなで食事の用意をするぞ!」
とりあえず気を取直して、ことさらに大きな声で言う。
子供たちが歓声をあげる。
「見ず知らずの俺たちに、ありがとうございます」
怪我をしている男が、支えられながら食事の支度をする俺たちの方にやってきた。
「我々は5層の開拓村の者だ。食事に関しては気にするな。こんな子達を見捨てられるわけがない」
オロンが言う。
「俺たち…ここは、ガルテア子爵様の領地になります」
「ガルテア子爵?」
オロンは首を傾げた。聞き覚えがないらしい。
当然のことながら、俺たちにわかるわけがない。
「ご存知ないでしょうね。半年程前に貴族になられたそうです」
あー、そりゃ知るわけがない。
「じゃあ、この村は?」
シャルの言葉に男は頷く。
「はい。できてまだ、5ヶ月たっていません。俺を含めて、2層の孤児たちを集めて作った村です」