36 盗賊団
第3層からは、いよいよ王国の本領となる。
第3層は第三ダンジョン卿が統括していて、さらに様々な貴族が封じられている。
上下の「階段」付近と中央の層都は第三ダンジョン卿の直轄地である。
3層に上がったところで、「階段」を守る衛兵から全員の氏名と目的を確認された。
衛兵たちもイシュルたち3人には驚いたようだが、そこは役目柄か、なんとか表情に出すのを堪えたようだ。
「伯爵閣下に、彼らの御目通りは叶うかな?」
オロンの言葉に衛兵隊長は大きく頷いた。
「王国に属さない人類が見つかったとなれば、閣下は必ずお会いになると思いますよ。マメな方ですし」
そう言う衛兵隊長の表情は、遥か雲上の人を語るというよりも、親しい人の噂を語っているようだ。
なかなか下のものに慕われている方のようだ。
手続きは、極簡単に終了をして旅を再開する。
「ひらけてはいるけど、あまり畑の状態は良くないわね」
周囲の風景を見て、シャルが呟いた。
彼女の言うとおり、畑はあちこちに点在し、働いている人も見かける。しかし、畑自体の状態は村と比べても、あまり良いとは言えない。
土は硬そうな上、石ころ混じりに見える。作物自体の状態もあまり良くは見えなかった。
「まだ畑を拓いて、間もないのかな」
「そんな風に見える」
シャルとノマが語りあっている。
「そういえば以前通った時は、ここら辺に人は住んでいなかったな」
オロンが思い出したように言う。
「どれくらい前なの?父さん」
「父上と呼びなさい」
「…どれくらい前なの、父上」
溜め息をつきながら、エスタは尋ね返した。
まだ若いのに苦労人だの、エスタ君。
「今の陛下が戴冠なさった折だから、2年前だな。その時は、ここら辺は林だったような記憶がある」
なるほど、開墾してまだ2年以内の畑なら、わからなくない。
そんな話をしていると、一旦畑が切れ、山がちの道になってきた。木々も増えて見通しも悪くなってきた。
5層なら魔物を警戒するところだが、俺の探知範囲に魔物は見当たらない。
そのかわりという訳じゃないだろうが、前方に10人近い人の集団を探知した。
(この先に人の集団がいる。数は9人)
(私も探知しました。盗賊かなー?)
念話でシャルたちやイシュルたちに伝える。
(それにしては弱々しい)
ノマの言うとおり、探知した気配は小動物と間違えそうな、か細さだ。
やがて、道を塞ぐように立つ子供たち9人が見えた。
薄汚れて痩せこけている。全員自分の身長ほどの棒を持っているが、武器というより、倒れそうな身体を支える杖にしか見えない。
年齢のころは6歳から10歳というところか、ほとんどが男の子だが2、3人女の子もいる。
「おい」
近づいて行くと、真ん中に立つ一番年嵩に見える少年が声を上げた。
威勢がいいようなセリフだが、掠れた弱々しい声だ。
「ここを通りたければ、食べ物を寄越せ」
つっかえつっかえ、それだけを言う。
盗賊というには、あまりに哀れな様子に、俺たちはどう反応すべきか立ち尽くした。
それを見た少年は、さらに震える声を絞り出した。
「なにか食べるものを下さい。お願いします」
剣に手をやることも忘れて、俺たちは顔を見合わせた。シャルもノマもオロンたち、そしてイシュルたちも多分、同じことを思っていたろう。
いや、この盗賊団(?)は卑怯じゃないか?
俺たちは、この凶暴な盗賊団にすぐさま降伏して、食べ物を分け与えた。
読んでいただきどうもありがとうございます。
感想欄で、どうして住人募集って話が出てきたのか、というものを頂きました。
本文じゃなく、ここで答えるのも邪道な気もしますが、最大の理由は召喚に使う力素を節約するためです。
もう一つ理由がありますが、そこはちゃんと本文中でわかるように書いていきたいと思います。
もうちょっと先の話になると思いますが。