34 上層へ
話数を間違えていたので、訂正しました。
話の順番は変更ありません。
「本村は、近くにあるのかね?」
村長が尋ねる。
「それについて外部に話す事は禁じられておる」
「なにを警戒しているのかな?」
「私たちが決めた事じゃないんで想像ですが、所詮我々は少数派ですからね」
「ふむ」
ノエルの言葉に村長が考え込む。
「ご理解ください。我々は、あなたたちの王国に隣接する弱小国という位置付けなんですから」
「なにを馬鹿なことを」
オロンは嘲ったが、村長とオドは虚をつかれたらしい。
「確かに、王国の勢力範囲外にある、異なる人類の集団か。外国と言っても間違いじゃないな」
村が所属するのは、1層から3層までを支配する王国だ。ほかに人類の国は存在しない。
かつては、層毎に国があった時代もあるが、統一王国が出来て百年あまり、王国に所属しない人類は存在しなかった。
つまり、イシュルたちは百年振りに現れた外国人なのだ。
ホントは、ダンジョンにすら所属してないけど。
「弱小国の代表としては、隣国になるべく、情報を与えたくないんですよ」
「弱小国とか言いながら、自信有り気に言いにくい事言うな」
苦笑しながらオドが言うと、ノエルは悪戯っぽくウインクした。
「国としての力と、個々人の力は別ですからね」
「言うねぇ」
苦笑を深くして、オドは俺の方を見た。
「この人らと戦って、勝てるかい?」
「あとで、この人たちのステータス見せてもらうといいですよ」
しかめっ面を作って答える。
ちなみにシモベたち3人のステータスは、一般的な尖兵の5倍程に偽装してある。もちろん、俺のシモベとかいう称号も隠した。
ココアに頼んでいた事というのが、これである。
俺たちのステータスも偽装済みだ。能力は一般の6割増しというところにしてある。
「しかし、外国となると中央にお伺いをたてんといかんなぁ」
村長が天を仰いだ。
よしよし、計画通り。
俺はシャル、ノマと目配せを交わし合う。
シモベたちを村まで連れてきた目的は、シモベたちを認知させ、彼らから村に欠けている知識を浸透させる事。
そしてもう一つ、なんとか1層に行く口実を作り、そこでマイダンジョンの住人を得る事だった。
ここまでの会話は、シモベたちを1層に送り込むのに誘導するよう、事前に念入りに打ち合わせている。
その成果が見事に出たわけだ。
「あなたたちを代表者として受けとっていいのかな」
「交渉に関しては、全権を委任されていると思っていただいて結構」
なんとイシュル、初めての発言である。
ちょっと噛みそうになったのはご愛嬌。
「デレクたち3人が、しばらく抜けても大丈夫かね」
村長がオドを見る。
「そりゃ、普通なら無理だな」
「魔物の心配なら、森には残りの仲間がいる。心配いらん」
ドランが請け負った。
「お任せしても、大丈夫ですかな」
「そりゃ、やらんと我々の集落も危険だからな」
「なるほどな。では、申し訳ないがデレクたちと共に、どなたか1層の王宮へと出向いていただけないだろうか」
村長が頭を下げ、みんなが一斉にイシュルを見た。
その中でイシュルは鷹揚に頷く。
「承知した。我々3人で出向こう」
一層の王宮へは、往復を考えれば1か月以上かかる。向こうでの交渉がどの程度かかるかはわからないが、全体で2か月は5層を離れると思った方がいい。
俺たちは、そのつもりで準備を始めた。
「まあ、戻ろうと思えば、すぐに戻れるわけですが」
確かにココアの言う通りだが、そう一筋縄ではいかない理由がある。
代表者としてオロンが同行するのだ。
これは事前に予想されたことでもあった。1層へ出向くのに、村の人間がただの尖兵である俺たちだけというのは、ありえない。俺たちは留守番という可能性の方が高いとすら思っていた。
村を離れられない村長以外で、唯一の開拓局職員であるオロンが代表になるのは、最も可能性が高いと思っていた。
なので準備もしてある。
マイダンジョンへの収納が使えるように、大きな皮の袋を用意してある。
イシュルたちの国に伝わる秘宝、無限収納が可能な袋というわけだ。
実際は袋の中にマイダンジョンへの入口を作るだけだけどね。
諸事情で、袋の入口担当はココアという事になっている。
一週間ほどかけて、俺たちは旅の準備を進めていった。