33 対話
村から100米程離れた畑の外れで、イシュルたちと会う。
ちなみに、やってきたのはイシュル、ドラン、ノエルの男性組だ。女性組は、トラブルを引き寄せる予感しかしなかったので、お留守番である。
互いに自己紹介が終わると、村の中に招き入れる。
「真木をあまり植えていませんが、なにか理由があるんですか?」
ノエルが畑の中の道を歩きながら、尋ねた。
体格が良くて、もっさりした感じだが、実はノエルが一番社交的である。よって、交渉役は彼に振ってある。
最悪なのは、もちろんイシュル。リーダー役ということで、あまり喋らないようにさせている。
「真木?ああ、まじないで植える事もあるがね」
鼻で笑うようにオロンが言った。
「え?まじない?あれ程有効な魔物避けを?」
ノエルが驚いて見せる。ちょっと演技過剰な気もするな。
「魔物避け?真木がですかい?」
オドが反応した。彼も敬語を使い慣れていないんで、変な喋り方になっている。
俺の隣で、シャルが唇の端をピクピクさせている。笑いを堪えているらしい。
「真木は瘴気を吸収して魔物の発生を抑えるだけでなく、魔物自身の力を吸収して弱体化させる。じゃから、真木の林には魔物は決して近づかぬ」
ドランが言うと、村長たちは顔を見合わせている。
「初めて聞く話しだぞ」
「彼らの集落の周囲には、確かに真木が植わっていた。しかも、柵も堀もなかった」
ノマが言うと村長が天を仰いだ。
「本当かよ。そりゃ」
「どうしたんです?村長」
あまりに大げさに嘆いているので、オドに尋ねてみた。
「昔な、村の周りに真木をグルッと植えようって話しがあったのさ。無駄だから、やめようって事になったけどな」
「ああ、その時やっときゃって事ですか」
「他人事みたいに言ってるがな、植えようって言い出したのは、お前の親父だぞ」
「へえ」
びっくりはしたが、両親が死んだのは、6才の頃だしな。良く覚えていない。
「もしかして、肥料の事とかも言ってました?」
「肥料?なんだそりゃ」
流石にそこまでは気がつかなかったか。真木の魔物避けは、魔物の動きを注意深く見れば気がつくかもしれないけど、肥料は純粋に知識だしな。
「いや、彼らの集落で畑に撒いてたんですよ。作物を良く育てるためにって」
「なんだそりゃ。詳しく聞かせろ」
村長が食いついた。
背後でイシュルの表情が険しい。村長の俺に対する態度が気にいらないのだろう。
「それはイシュルさんたちに聞かないと、良く分かんないですよ」
そう言ってイシュルたち3人を指し示す。
「ああ、これは失礼。とりあえず、村で落ち着いてからですな」
先走った事に気がついた村長は、イシュルたちに謝ると、案内を再開した。
「不調法なので、単刀直入にお尋ねするが、我々に協力いただけるという理解でよろしいのですかな」
村長室に入り、再度挨拶交わすと村長が切り出した。
その前に、俺たちを同席させるか、同席させるにしても座らせるか、などという下らないやり取りがあったが、そこは省略。
問題視したのはオロンだけだったし。
ちなみに俺たちが、追い出されたとしても問題はなかった。事前に打ち合わせ済みだし、ココアを通せばシモベの見聞きすることは、同時に知る事が出来る。ココアは「もにたー」と言ってたかな。
問題なのは、イシュルの機嫌が悪くなる事だけだ。
(すでに機嫌悪いけどねー)
シャルが、シモベたちに届かない念話でため息をついた。
「ダンジョン内での生活圏拡大は、共通目的ですからね。協力できると思いますよ」
交渉役のノエルが如才なく言う傍らで、イシュルは不機嫌そうに座っている。
「あんたらの方が、戦力が上だろうし、さっきの話からすると知識もありそうだ。我々に、一体なにを望む?」
オドが尋ねた。
「物量ですね」
「物量?」
「我々は長命種で力もありますが、繁殖力に劣ります。要は人がいないんですよ。本村を含めて100もいません。生活圏を広げると言っても、それを維持でないんです」
「それを俺たちにやれと?」
「そいういう事です」
村長とオドが顔を見合わせる。
「話がうますぎるように聞こえるな」
「儂らからすると、逃げ込める安全地帯ができるというのはでかい。それに戦力も増える。デレク殿たちのように、我々と共に戦える実力の者もおるじゃろ」
ドランが言った。
読んでいただき、どうもありがとうございます。
本文中でノエルが「本村」がどうのと言っておりますが、もちろんそんなものはありません。
旧ダンジョン側住人向けの「設定」です。