27 スローライフ 詭弁を添えて
村に無事帰還して、しばらくの間は、目が回るような忙しさだった。
シャルやノマとのパーティに戻ると、即、西の森の探索を本格化させたのだ。
もちろん、村を出てしまえばシモベたちと一緒だ。
人数が増えて楽になったかというと、そんな事はない。やる事も増えたからね。
「集落を作る?この西の森の真ん中に?」
最初に提案した時はシャルもノマも、なんでそんな事を、といった感じだった。
シモベたちは、疑問を持たずにヤル気マンマンだったけど。
「そうだね。イシュルたちが住んでいた、という設定の集落をつくりたい」
「設定?あ、そういう事」
「なるほど、考えましたねー」
ノマとシャルが得心すると、逆にシモベたちが疑問を持ったようだ。
だが、遠慮して疑問を口に出せないご様子。
「わからない事があったら、気軽に尋ねていいよ。意図がわからないまま行動して、目的を達成できない方が困るしね」
「は!では恐縮ながら、マスターの御意志をお教え願えますでしょうか」
「そんな難しい話じゃないよ。いつまでも、イシュルたちを秘密にしておくのも面倒だろ。イシュルたちの住む集落を見つけたって事にするのさ」
そう言うと、シモベの4人は「そこまで我々のことを考えていただけるとは」などと感激している。
そこで俺はニッコリと微笑んで言った。多分悪い表情をしてると思う。
「だから4人とも、我々3人を普通の人として扱って、対等な口調で話すように練習してね」
「そ、それは!」「マスター、お許しを」
4人が悲鳴をあげた。
「まあねー。最近偶然に遭遇した集落の人が、敬ってくるって怪しまれるもんねー」
「デレクの計画を、うまくいかせる為にやむを得ない」
シャルとノマも、追い込んでくる。
「真木の事も、肥料の事もイシュルたちの知識として伝えたいんだよね。だから、本当に重要なことなんだ」
「し、しかしマスターに対等な口をきくなどと、大それた真似を…」
「うーん。擬装ができない人は、村に紹介できないから、今まで通り、マイダンジョンに待機してもらって、影からフォローって事になるなぁ」
4人の表情が絶望に染まる。
「お側仕えの機会をみすみす…」
「しかしマスターに対し」
「主命が…」
なんかブツブツ言いだしたよ、おい。
「4人とも」
「「「「ハッ」」」」
厳しい顔つきでシャルが呼びかけると、シモベたちは直立した。
「あなたたちのデレクに対する敬意は、表に表さなきゃ伝わらないほど、薄っぺらなものなの?」
シャルの言葉に、愕然とした表情を見せる4人。
一方、ノマとココアと俺は、
(詭弁)
(詭弁ですね)
(見事な詭弁だ)
ある意味、心を一つにしていた。
「いい?忠誠を履き違えては駄目よ。敬意も大事だけど、本当に大事なことは、主人の意思を実現させることではないの?!」
4人は、うなだれて聞いている。
「わたしを見てみなさい。一見、デレクを呼び捨てにしたり、からかっていたり、不敬にみえる態度をとるわ。でもね、それはデレクを孤独にしないで、明るく過ごさせる為に、あえてやっているの!」
(あー)
(途中までは、それなりに良いこと言ってたんですけどね〜)
(詐欺師)
苦笑する我々と違い、シモベたちは感激の面持ちだ。
「シャル奥様」
「そんな御深慮があったとは」
「いい?あなたたちに、いきなりそこまでしろとは言わない。でも、デレクの計画に必要なら、努力するのがシモベの忠誠ではないの」
俺とノマは、拍手をする。
シャルは、こちらの方を見ると、爽やかな笑顔で一礼した。
いろいろ言いたい事もあるが、4人が納得してくれたから、まあいいか。
「マスター、我々が心得違いをしておりました」
イシュルの言葉に合わせて、シモベたちが深々と頭を下げる。
「わかってくれたらいいんだ。じゃあ、今この時から練習しよう」
口調もそうだけど、容易く騙されないような教育も必要かなぁ。
「承知いた…いえ、わかりました」
かくして、擬装集落作戦は開始された。
読んでいただき、どうもありがとうございます。
しばらくの間、スローライフ(偽装)成分が続く予定です。