26 木石
それから3日間、俺とポールたち(それに隠れてついてきているイシュルとヴァニラ)は、東の平原で探索を続けた。
魔物を狩って(こっそりと回収し)、魔物が少なくなった場所には、魔物避けの結界石を置く。
その繰り返しだ。
ポールたちもパーティとしての戦術が確立して、俺が駄目出しすることも少なくなった。
そろそろ、結界石もなくなってきたし村に帰還かな。
(そういえば、真木は使わないんですね)
ココアの言葉に首を捻る。
真木って葉に棘のある常緑樹だよな。村の畑で生け垣代わりに使っている。
(そう、それです)
それを使うって、何に?
(結界石って、瘴気の吸収の為に置くんですよね?)
そう聞いてるけどね。瘴気が薄くなると、魔物の発生が抑えられるのはもちろん。嫌がって魔物が寄り付かなくなるって。ココアの説明でも、そう言ってたよね。
(瘴気が薄くなると、おっしゃる通りの効果があります。ただ、術式を見るに、この結界石の効果は、かなり薄いかと)
まあ、確かに村でも、気休めって言われるしな。
(そこで真木ですよ!)
ココアは声を張り上げた。
お、おう。
思わず声を上げてしまって、ポールたちにどうしたのかと、見られてしまった。なんでもないといった風に、手を振る、
(真木は瘴気の吸収効果が、樹木の中でもっとも高いんです。しかも、直接魔力に変換するという優れモノ!)
なるほどなぁ。畑の周りに植えているのは、呪いの類いかと思ってたけど、ちゃんと意味あるんだ。
(もちろんですとも!)
結界石は、持ち運びのし易さくらいしかないのか。
(いやいや、これはこれで重要な役割があります)
ほー?
(基本知識ですけど、こっちのダンジョンでは伝わってないんですかね)
少なくとも俺は、魔物避けしか聞いたことないな。
(いいですか?マスター。結界石は、農業には、重要なアイテムです!)
というと?
(魔物の死体を腐らせたり、焼いたりすると肥料になるというのはご存知ですか)
知らん。普通、腐る前に瘴気化するし。そもそも、肥料ってなんだね。
(そこからですか)
その失望した感じやめて欲しいな。一応マスターなのに。
(いや、マスターに失望したわけじゃなくて、このダンジョンの現状に失望しただけです)
一応このダンジョン生まれの人間としては、地味にそれもきついんですが。
(肥料というのは、畑に撒いて収穫量を上げる物ですね。ごく簡単な説明ですが)
ほうほう。
(魔物や樹木を腐らせた物や、焼いた灰を使います。糞尿も使えますが、あれは結構難易度が高いので、まあ除外しましょう)
全部、瘴気化するかダンジョンに吸収される物だな。
(樹木の腐ったものは、若干違いますが、概ねマスターの言う通りです。そこで使うのが、こちらにご用意した結界石です)
別に用意してないけど、言うだけ野暮なんだろうな。
(結界石の周囲で腐らせたものは、ダンジョンに吸収されません。つまり、肥料として使用可能になるのです!)
ほう。
真木の話といい、この肥料の話といい実に有意義な内容だ。
(こんなのダンジョン開拓の初歩なんですけどね)
ココアが嘆くように言う。
まあ、今からでも遅くはない。マイダンジョンに至っては、まだこれからだしな。
(そうですよね。この長いダンジョン坂を上り始めたばかりですもんね)
なんだよ、そのダンジョン坂って。
なんかココアが左方の空を見上げているイメージが浮かんだが、おそらく意味はないので無視する。
「じゃ撤収するか」
キャンプ地点の後片付けをしていたポールたちに、声をかける。
「ああ」
この3日間で大分顔つきが変わった4人が、荷物を持って立ち上がる。
「ところで、ポール」
村に向けて歩き始めながら、声をかける。
行きとは違い、4人とも周囲警戒に余念がない。
「なんだ」
「ポールたちが立てていた建物だが」
そう言うと4人とも酸っぱい顔になる。
「発想としては間違ってないよ」
「え?」
「比較的安全な場所に休息拠点を作るのは、戦力維持を考えて大いにありでしょ。今回は、休息拠点として使わないで、そこに引きこもっていたから問題なわけで」
「なるほど。だけど、しばらくの間は拠点を作るのはなしかな」
ポールが言い、他の3人も頷いている。
「懲りた?」
「懲りたというか、材料集めが大変過ぎて」
顔をしかめるポールを見て、思わず笑ってしまった。
理由が即物的すぎるだろ。
読んでいただいて、どうもありがとうございます。
真木とか本文中に、それらしい植物名とかが出てきますが、現実世界の槇とはまったく関係ありません。
もちろん、ダンジョン坂とお○こ坂も関係ありません。
間違える方がいるとは思えませんが、ちょっと言ってみたかったので…