25 兎狩り
俺たちは、慌ただしく旧ダンジョンに戻ると、ポールたちが建てた家のあった場所に材木を置いた。
「イシュルたちは悪いが、しばらくこいつの火の番をしてくれ。できれば、燃え残りで何を燃やしたか判らない程度まで頼む」
「お任せください」
「煙で魔物が寄ってきたら、倒してマイダンジョンに放り込んでいい。もし、村の人間が様子を見に来たら、見つからないように撤収だ」
「万が一見つかってしまったら?」
ヴァニラが尋ねた。
男性のドワーフと違い、女性のドワーフはあまり人間と変わらない。背が低く、目が少し大きめで髪がフサフサな女の子、といったところだ。
担いでいるのは、斧だけど。
「ひたすら逃げろ。追いかけられたら、村を避けて西の森へ向かうルートを取れ。悪いけど、まいてしまうまでマイダンジョンに入ることは、禁止ね」
「「はっ!」」
「頼んだよ」
そう言うと〈火炎〉で材木に着火した。まだ水分が抜けていないので、高温で無理矢理燃やしたが、煙が物凄い。
「じゃあね。うまく済んだら、すぐに追ってきて」
そう言うと、頭を下げる二人を残して、ポールたちを追った。
ポールたちには、1粁ちょっとのところで追いついた。
魔物の数が多く、少し進んでは戦い、戦っては少し進んでの繰り返しだったようだ。
追いかけるのは、魔物の死体が目印になって楽だった。
もちろん見つけた死体は、マイダンジョン行きだ。
ポールたちに合流してからは、本格的に「気合いの入れ直し」の開始だ。
別に特別なことをするわけじゃない。
4人の後ろで戦い方を見ながら、駄目出しをするだけだ。
危険な場合は、俺も参戦した。だけど、一応ポールたちも尖兵の上位パーティだけあって、そんな事になるのはあまりなかった。
コボルド16匹の集団を発見した時は、先頭で戦ったけどね。この戦力差だと、俺はともかく、4人は普通に死ねる。
3時間もした頃には、イシュルたちも追いついたようだ。背後で気配がした。
(首尾は?)
(お申し付け通りのに致しました)
(魔物は大量に寄って来ましたが、人間はきませんでした)
イシュルとヴァニラが、念話で代わる代わる報告する。
(そうか。ありがとう。ご苦労様)
(なんと勿体ないお言葉)
イシュルとヴァニラが感激して絶句する。
正解には、念話なのでいろんな思考がごちゃまぜになって、意味が取れない。
一応、言葉を発したイシュルはまだしも、ヴァニラは全く意味が取れない。
(これ、絶頂とかエクスタシーとかいう状態じゃないですかね)
俺だけに向かってココアが言った。
(やめてくれよ)
言葉だけで絶頂させるって、どんなテクニシャンだよ。
お礼言うのにも気を使わにゃいかんのか、俺は。
(いやぁ、何回か続ければ、慣れて不感症になりますって)
だからぁ、そーゆー言い方は、やめましょう。
そんな、アホな事を言い合っていると、目の前では再び戦いが始まった。
今度は牙兎の一群だ。
小型の魔物で、地を滑るような高速で走り足元に喰らいつく。倒れたら、集団で襲われて一巻の終わりだ。
5頭以上の集団で行動し、大きさも中型犬ほどで攻撃が当たりにくい。
慣れていないと、なかなか厄介な魔物だ。
有効な対処法は、蹴ること。
今まさに、アナヤが足首に嚙みつこうとした牙兎を蹴り飛ばした。
牙兎は10米ほど転がって、動かなくなった。
攻防一体の対処法だが、尖兵は脛当てを装備しているのでさほど危険はない。
もっとも気をつけるべきは、両足同時に狙われないことだ。
本当は〈防壁〉などを使って、攻撃経路を限定すべきだが、ポールたちは、あまり魔法が得意でないので物理攻撃一辺倒だ。
最初に比べると互いに連携しているので、一応危な気はない。
あと3頭くらい増えて、8頭以上相手だと厳しいだろうが。
戦闘が損害なく終了すると、後処理だ。
牙兎は肉が美味しく、皮も利用できる上に、牙が鏃の材料になるという、非常に利用価値の高い魔物だ。
捨てるのは内臓と骨だけ。
よって、あとで我々がマイダンジョンに回収できるのも、内臓と骨だけだ。
(屍肉漁りみたいで、さもしくなりますね)
ココアが嘆いた。
(じゃ、いらない?)
(いります!)
即答かよ。
読んでいただきありがとうございます。
デレクたちの分割行動も、あと1話程度の予定です。
その後、申し訳程度のスローライフ成分が入るはずです。